ベルギーの安楽死・最前線
安楽死法の成立に貢献し、その後も安楽死委員会の要職について
100人を超える患者の安楽死を実施してきたとされるWim Distelmans医師は
終末期ではないどころか病気ですらない人への安楽死の正当化や
去年、70人の医療関係者と学者を率いてアウシュビッツ見学ツアーを実施したことなどで
なにかと非難が出ている。
100人を超える患者の安楽死を実施してきたとされるWim Distelmans医師は
終末期ではないどころか病気ですらない人への安楽死の正当化や
去年、70人の医療関係者と学者を率いてアウシュビッツ見学ツアーを実施したことなどで
なにかと非難が出ている。
自分たち家族に知らせることなく、Distelmans医師が
鬱病の母親 Goldelieva De Troyerさんの安楽死を実施したことを非難し、
ヨーロッパ人権裁判所に訴えた息子のTom Mortierさんを中心に、
Distelmans医師を含めた関係者に広く取材している。
鬱病の母親 Goldelieva De Troyerさんの安楽死を実施したことを非難し、
ヨーロッパ人権裁判所に訴えた息子のTom Mortierさんを中心に、
Distelmans医師を含めた関係者に広く取材している。
THE DEATH TREATMENT
When should people with a non-terminal illness be helped to die?
Rachel Aviv,
The New Yorker, June 22, 2015
When should people with a non-terminal illness be helped to die?
Rachel Aviv,
The New Yorker, June 22, 2015
結婚して2児をもうけるも離婚。
その直後には父親の自殺もあり、精神状態は改善せず、
そのため息子とも娘ともうまく行かないままだった。
その直後には父親の自殺もあり、精神状態は改善せず、
そのため息子とも娘ともうまく行かないままだった。
その4ヵ月後、心理的な苦痛から同医師に安楽死の申請をしたと知らせる手紙が
2人の子ども達に届くが、娘は関わりたくないと言い、
息子のTomはまさか家族に何の連絡もなく実施されることはないと思いこんでいた。
2人の子ども達に届くが、娘は関わりたくないと言い、
息子のTomはまさか家族に何の連絡もなく実施されることはないと思いこんでいた。
母親が死の7週間前にLEIFに2500ユーロを寄付していたことも知る。
5月15日、TomはDistelmans医師のクリニックに赴く。
疑問をぶつけたが、D医師は、
本人には子ども達に連絡を取るよう勧めたが本人が知らせたくないと言ったのだし、
自分は彼女を殺したのではなく、彼女自身の「断固たる意思」だったのだと答える。
本人には子ども達に連絡を取るよう勧めたが本人が知らせたくないと言ったのだし、
自分は彼女を殺したのではなく、彼女自身の「断固たる意思」だったのだと答える。
Tomの切々とした訴えにも、激昂にも、心を動かされることはなく、
Godelieva自身が死にたいと望んだことであり、それは彼女の権利だと繰り返した。
Godelieva自身が死にたいと望んだことであり、それは彼女の権利だと繰り返した。
2013年の夏、TomはGeorges Casteur医師に母親のカルテの検証を依頼し、
法律が求める3人の医師の同意をそろえることが困難だったらしいことを知る。
気持ちの揺れ幅が大きいことから決意はまだ固まっていないと考えた医師が一人、
もう一人も、孫の話をすると気持ちが揺らぐことに希望があると考えたようだった。
法律が求める3人の医師の同意をそろえることが困難だったらしいことを知る。
気持ちの揺れ幅が大きいことから決意はまだ固まっていないと考えた医師が一人、
もう一人も、孫の話をすると気持ちが揺らぐことに希望があると考えたようだった。
それを元にTomはBelgian Order of Physicians とブリュッセルの検察庁に対して、
母親の病気は法律が求めているように不治ではなかったと訴えたが、
それがメディアに取り上げられると、世論からは、自由意志を尊重しないことへの批判や、
安楽死に対するネガティブ・キャンペンだとバッシングが巻き起こった。
母親の病気は法律が求めているように不治ではなかったと訴えたが、
それがメディアに取り上げられると、世論からは、自由意志を尊重しないことへの批判や、
安楽死に対するネガティブ・キャンペンだとバッシングが巻き起こった。
特に、昨年、子どもの安楽死合法化を実現に導いたEtienne Vermeersch(81)は
次には認知症の人の安楽死の合法化に向けて活動しているところでもあって、
Tomを批判する声明への署名運動を始め、7000人が署名。
次には認知症の人の安楽死の合法化に向けて活動しているところでもあって、
Tomを批判する声明への署名運動を始め、7000人が署名。
Lily Boeykensさんという74歳の有名なフェミニストが
アルツハイマー病初期症状が出たことから安楽死を希望。
現在は自立生活を送っているため2人の医師が拒否したが、
アントワープ大の神経科医でアルツハイマー病を専門とする
Peter De Deyn医師が安楽死に同意。
アルツハイマー病初期症状が出たことから安楽死を希望。
現在は自立生活を送っているため2人の医師が拒否したが、
アントワープ大の神経科医でアルツハイマー病を専門とする
Peter De Deyn医師が安楽死に同意。
その中で特にBritish Medical Journalに掲載の調査で
フランダース地域の安楽死の半分しか報告されていないことや、
安楽死委員会の16人の委員の半数は安楽死推進アドボケイト団体と繋がりがあること、
などを挙げた。
フランダース地域の安楽死の半分しか報告されていないことや、
安楽死委員会の16人の委員の半数は安楽死推進アドボケイト団体と繋がりがあること、
などを挙げた。
その他、この記事には興味深い分析があり、
安楽死法の成立や、その後も安楽死が啓蒙と発展の象徴と見なされる風潮について
カトリック教の伝統が根強いベルギーの政治が戦後、
急速に脱宗教を図り、人道主義に傾斜してきたことを反映した
「政治的報復のきらい」がある、との見方を紹介している。
安楽死法の成立や、その後も安楽死が啓蒙と発展の象徴と見なされる風潮について
カトリック教の伝統が根強いベルギーの政治が戦後、
急速に脱宗教を図り、人道主義に傾斜してきたことを反映した
「政治的報復のきらい」がある、との見方を紹介している。
(確かに医療というよりも社会的な懸念から生じる苦しみだけれど、
彼はそれもまた不治の苦痛と考えると言い)
彼はそれもまた不治の苦痛と考えると言い)
記者は取材で友人達から、Godelievaさんが人に依存するタイプだったとか、
前の精神科医にも投資の内容まで相談するほど依存していたなどと聞いたことから、
Distelmans医師を偶像化し、その考えに引きずられた可能性を考えるが、
同医師は「他人を喜ばせるために死のうとする患者なんて会ったこともない」と笑い飛ばす。
前の精神科医にも投資の内容まで相談するほど依存していたなどと聞いたことから、
Distelmans医師を偶像化し、その考えに引きずられた可能性を考えるが、
同医師は「他人を喜ばせるために死のうとする患者なんて会ったこともない」と笑い飛ばす。
でも「人間の尊厳は、単に個人の選択を尊重することだけでなく、
愛する者や社会とのつながりの尊重も含んでいなければならない」
愛する者や社会とのつながりの尊重も含んでいなければならない」
TomはDijnと出会い、その考えに影響されて自分の考えを取りまとめ、
ネット上に発表したエッセイで、以下のように書いた。
ネット上に発表したエッセイで、以下のように書いた。
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