山口研一郎編著 『国策と犠牲』



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戦中、戦後、連綿と続けられてきた医療政策や科学技術が、国のほんの一握りの人たちにとって有意義である一方、多くの人びとに多大な被害や被災をもたらすものであった。現在、国民に徹底して「犠牲」を強いる「国策」は、その規模や凶暴性を増して推進されようとしています。その連鎖の構図をどこかで断ち切らねば、今後、私たちの生命(いのち)や生活(くらし)は、ますます追いつめられていくのではないでしょうか。


まだ全部は読めていないのだけど、
1度は延長した図書館の返却期限が迫ってきたものだから、
以下だけ読んだ。

第3章 医療政策としての脳死尊厳死           小松美彦
第4章 人体部品資源化・商品化のいま           天笠啓祐
コラム2 改訂臓器移植法施行後三年の実態         川見公子
第5章 子どもと臓器移植・原発事故・遺伝子診断      亀口公一
第6章 科学技術における「国策」と「犠牲」の連鎖の構図  山口研一郎
第7章 長崎の医師・永井隆、秋月辰一郎のことなど     山口研一郎


この本はもう一度、改めてじっくり読むつもりなのですが、
とりいそぎ、自分自身のメモとして。


第4章の二 「知的所有権戦略始まる」の
モンサントのえげつない農家提訴戦略について触れたくだりで、

このように多国籍企業が種子を支配し、食料を支配するための知的所有権強化であることが如実に示されたのです。それを後押ししているのが、米国政府が多国籍企業と組んで進めている食糧戦略であり、その資金源となっているのがマイクロソフト社の巨額の儲けを基盤に作られたビル&メリンダ・ゲイツ財団(以下、ビル・ゲイツ財団と略す)です。

2000年代に入ると、米国政府、モンサント社ビル・ゲイツ財団の三者が共同して、遺伝子組み換え作物を世界に売り込む戦略が展開されています。ビル・ゲイツ財団が2011年10月に新しい報告書を発表しました。それによると、2005~2011年にかけて拠出した助成金の40%以上が遺伝子組み換え作物に割り当てられたことが示されました。ビル・ゲイツ財団はまた、2011年にモンサント社の株を50万株購入しており、同社と一体で売り込みを進める態勢が強化されています。
(p.179-180)


この後で紹介されている、
モンサントから訴えられたカナダの農夫シュマイザーさんの事件については
日本有機農業研究会のブログのこちらのエントリーに ↓
http://www.joaa.net/gmo/gmo-0408-01.html

また、シュマイザー裁判については
天笠啓祐編著のブックレットが出ているらしい。

タイトルは
GM汚染 多国籍企業モンサントと闘うシュマイザーさんからの警鐘』
上記の日本勇気の雨量研究会のブログエントリーの末尾に詳細あり。


もう一つの米国の農夫ボウマンさんがモンサントから訴えられた事件については、
大塚国際特許事務所のこちらの記事に詳しい ↓
http://www.patest.co.jp/cafc/2013/cafc20130703.html




第6章の六 水俣・三池における国策と犠牲の構図

 以上の指摘の中で私たちが見落としてはならないのは、「専門家」「専門医」の責任についてです。医療被害や薬害においてもそうですが、水俣・三池においても彼らの犯罪的行為は明白です。現在の原発においても見逃すわけにはいきません。人々を犠牲にする国策は、決して国や企業のみで可能なのではなく、そこでは常に専門職の立場の人間が、一般の人々(素人集団)を誤魔化したり、あるいは法廷において専門的知識を披露し裁判官を煙に巻いてしまうことで可能になるのです。
(p. 247)

……ユゼフ・ボグシュ編『医学評論 アウシュビッツ』(日本医事新法社、1982年絶版)によれば、アウシュビッツやビルケナウ(第二アウシュビッツ強制収容所における250万人から300万人とされるユダヤ人やシンチ・ローマ(ジプシー)あるいはソヴィエト人捕虜に対する人体実験や虐殺は、医師や看護師の協力なしにはあり得なかったという事実です。すなわち、医師や看護師など医療専門職は、人権や人命にかかわる最も重要な最前線に立たされており、人々の運命を左右する立場にあるのです。アメリカの精神分析学者ロバート・J・リフトンは、これを「medical killing(医療の名による殺人)」と呼びました。
(p.248)

 障害者・児に対する「安楽死計画」から民俗大虐殺に至る過程において、医師や看護師には「死刑執行人」としての社会的役割が与えられたのです。
(p.250)


それから、最近、生体肝移植で相次いで患者が死亡して問題になっている
KIFMEC(神戸国際フロンティアメディカルセンター)についての記述が
とても興味深い。

 一方KIFMECは、神戸市が国際総合戦略とっくとして「生体肝移植」を主とした「移植ツーリズム」を後押しし、先端医療産業都市構想のメーン会場としてのポートアイランドに、同構想の目玉として開業を予定しているものです(2014年秋)。アステラス製薬、シスメック、神戸製鋼、武田製薬などの企業が発足母体として名を連ねています。アラブ首長国連邦UAE)、アブダビ首長国の政府系ファンドから資金100億円を調達し(直接調達するのはアブダビ政府の投資期間「ムバダラ開発」。投資に対する収益を年間10%と見込んでいる)、中東の富裕層を対象に生体肝移植や再生医療を実施する予定でした。移植医療に対し、「富裕層が貧しい人を買収し、親族と偽って移植を受けたら臓器売買につながる」(神戸市医師会会長2010年10月2日『朝日新聞』)との懸念が示されており、行政としては慎重姿勢を約束せざるを得なくなっています。
(p.254)


あと、最後の永井隆博士の実像と、
長崎での永井氏と現在の福島原発事故における山下俊一氏の言動が
重ねて論じられていく第7章は圧巻でした。

医師である山口研一郎氏が、
政治や社会に利用されて加害者に転じかねない、
時に自ら加担していきかねない医療や医療職の抑圧性や欺瞞性を
ここまで透徹して見抜き、直視し、直言しておられることに、
ただ息を呑み、頭を下げる、というか。