インドの貧困女性とHPVとゲイツ財団と……ビッグファーマ?

もうこの話題には手を出したくなかったんだけど、
なぜか目に付く。目に付けば気にはなる……。

インドの貧しい女性への不妊手術とか子宮頸ガンの話題となると、
あー、それ、ゲイツ財団が絡んでるんじゃないかなぁ……と嗅覚が働く。

んで、ちろっと覗いてみるならば、
まず間違いなく「やっぱり…」ということになるから困る……。

で、困った挙句に、
やっぱりこうして苦渋のエントリーを書くことに……くぅっ。

それはともかく、今回も
インドの貧困層の女性と、家族計画・HPVと、ゲイツ財団と、
それから……やっぱビッグファーマ? 的な話題が2題。


無料のホルモン注射で避妊を。

まず、インドの「家族計画」といえば、すでに悪名高く、知る人ぞ知る
「貧しい女性を『不妊手術受けたら金とか品物あげる』とそそのかしては
ずらりと大勢並ばせておいて、ちゃっちゃっとものの数分で手術して、
ろくなケアもせずに屋外に放置して終わり」みたいな、不妊手術キャンプ。
(詳細は文末のリンクを参照)

……だったんだけれど、
2014年にキャンプで13人も死なせたスキャンダルがあったものだから、
Narendra Modi政権になってから方針転換することになり、
政府機関で無料でホルモン注射が受けられることに。

インドの貧しい女性の頻繁な妊娠出産が命を脅かしているとして
長年この方法を提唱してきたのは、米国国際開発庁(USAID)とゲイツ財団。

(ところでUSAIDのトップは2011年に拾ったこちらの情報によると、
インド生まれのアメリカ人で、ゲイツ財団の元職員とのこと)

WHOももろ手を挙げて賛成しているみたいなんだけれど、
反対の声も挙がっている。

その論点としては
ホルモン注射の安全性は確立されていない、
この動きの裏には欧米のビッグファーマの利権がうごめいている、
インドの医療インフラは脆弱でホルモン注射の規制や副作用のモニタリングができない、
これらの女性にきちんとしたICが行われる保証もない、
共産主義拡大阻止のための貧困撲滅手段として冷戦期に米国が人口抑制を支援したのと同じ、
など。

インドでゲイツ財団のために家族計画プログラムを監督してきた
Jyoti Vajpayee医師は

「星の位置は整いました。
現政府は過半数を超えているので、リスクをとることができます」

この記事後半にはoutreach workersという言葉が何度も出てくる。
つまり不妊手術を受けるよう貧しい女性達を説得して歩く人たち。

その一人(看護師)は
「どんな手段であろうと、政府がやるなら貧しい女性達は盲目的に信じます」



②  インドの貧しい女性を対象とした子宮頸がんスクリーニング研究の倫理問題

インドでは年間平均して72000人が子宮頸ガンで亡くなっている。

そのうち1997年以降の少なくとも254人は
スクリーニングに関する研究で十分な説明がされず、検診を受けられなかったために
死んだ可能性がある、と指摘しているのは、
米国の病理医で医療倫理学者のEric Suba医師。

ベトナムで細胞診検査によるスクリーニングで成果を挙げてきたプログラムの責任者。

「私の意見では、これらの研究は21世紀に世界のどこかで行われた、
科学と倫理の最悪の裏切り行為である」

問題になっているのは1997年から2012年まで行われた3つの研究。
それらの資金源は、1つが米国がん研究所で2つがゲイツ財団。

対象になった女性は全員が低所得層で363553人。

その方法とは、参加した女性を、
前がん病変を見つける早期スクリーニングを受けるグループと
受けないままのコントロール・グループに分けて、
両者の死亡率を比較し、スクリーニングの効果を実証しようとするもの。

138624人がコントロール・グループに入れられ、
そのうち254人が子宮頸ガンで死亡。

介入グループの224939人では
子宮頸ガンによる死者は208人だった。

コントロール・グループに入れられた女性は
必然的に前がん病変に気づくのが遅れることになるのだから、
きちんと情報提供が行われていれば、そちらのグループで参加しようとは思わないはずだし、

スクリーニング方法の効果の比較を目的に、
世界中で行われている子宮頸ガンの治験は行われているけど、
そこでは全員が何らかの検診を受けているじゃないか、とSuba医師。

研究に当たった医師らは
ちゃんと女性達を教育したうえでの参加だし、
コントロール・グループの女性でも求めればスクリーニングも受けられた、
研究目的は安価なスクリーニングの提供と死亡率低下であり、
実際にこれらの研究の結果、インドはもちろんアフリカや南米諸国でも
VIA(?)やHPVのスクリーニングが広がったのだから
倫理的にも問題はない、と主張。

ムンバイでの研究を行ったSurendra Shastri医師の以下の言葉がホンネなのでしょう。

「インドでは子宮頸ガンのスクリーニングはなしというのがスタンダードなのだから、
スクリーニングなしというコントロール・グループを作ることは倫理的に正当化できた」

ムンバイでの研究は米国政府機関の資金によるものだったので
Suba医師の不服申し立てにより調査が行われ、
参加者に適切な情報提供が行われていなかったことが明らかになった。

他の2つの研究は民間資金だから、政府が調査に入れないようだけど、
Suba医師が言うには、

その一つのOsmanabadでの研究では
Hybrid Capture2というHPVの検査が使われており、
現在インドで1回分2000ルピーで売られているもの。

細胞診なら1回分が80ルピーで済む。
前がん病変のスクリーニングなら細胞診でよいはず、というのがSuba医師の主張。

Suba, meanwhile, is not so sure if the lives of low-income women in India have changed much since the trials. “The political purpose behind allowing such research is to give power to research and commercial interests, like companies producing HPV vaccines,” he alleged.









ちなみにUSAIDの資金でアフリカで行われたHIV感染予防ジェルの臨床実験では
こんなこともあった ↓
ゲイツ財団肝いり“HIV感染予防ゼリー”は「新たなタスキギ実験」?(2011/6/24)
“HIV感染予防ゼリー”、効果確認できず大規模治験が中止に(2011/12/10)


ところで、上記医師らの「あちこちの途上国でスクリーニング普及につながったのだから
インドの貧しい女性がスクリーニングを受けられなかった倫理問題は正当化できる」という
論理について、ですが、

最近、「マスへのベネフィット」vs「個へのリスク」の比較考量で
倫理問題が正当化できるかのような議論が増えてきているのが
Spitzibaraはとても気になっています。例えば、以下など ↓