花を買いました

夕方、花を買いました。

自分のために花を買う、ということを
久しく忘れていました。

初めて、そういうことをしたのは、
拙著『アシュリー事件』の原稿を書いていた時でした。




書こうとすると、
何か、あるいは誰かに対する激しい怒りや憎しみでいっぱいになったり、

かつて経験した自分の中の負の感情が
当時のままによみがえってきて、その追体験に打ちのめされたり、

そういう体験によって長い年月の間に
自分の中に折り重なってきた負の感情の大きさに自分で圧倒されて、

まるで犬が自分の尻尾を追いかけてぐるぐるするみたいに
書いては消し、書いては消し、の堂々巡りから抜け出られなくなるから。

その嵐のような執着から自分を解き放ち、
誰かに届くための静かな言葉をちゃんと見つけて前に進むために。

花を買いました。