精神障害で安楽死希望の24歳女性、安楽死を取りやめ(ベルギー)

6月に以下のエントリーで拾ったニュースの続報。
(ここでは女性はLauraという仮名になっています)



以下の安楽死防止連合EPCのシャデンバーグのブログ記事によると、
The Economist誌が、Emilyという仮名でこの女性の取材をしており、
安楽死を希望して医師らとの面接を経て認められ、様々に準備しながら
直前になって気持ちを翻すまでをビデオに纏めて、10日に公開している。

ビデオは、以下のシャデンバーグのブログから見れます。21分。
ナレーションと一部の語りは英語。それ以外は英語の字幕があります。



取材を受けて語っているのは、Emily本人と母親、友人2人、
安楽死を認めた3人の医師、特に精神障害者安楽死クリニックと繋がりがあり
このところ熱心に精神障害者への安楽死推進を説いているLieve Thienpont医師。
(同医師については、末尾にリンクしたエントリーに)

同医師の語りは非常に大きく取り上げられており、
精神障害者の中にはどうしても治療不能で生きることが耐え難い人がいて、
病気が癌のように目に見えないため理解が得られにくいが、
治せない点で癌と変わらないなどと語っています。

安楽死が認められて日時が決まると、
毒物を自分で飲むか注射してもらうかが選べ、エミリーは注射を選択します。

医師から段取りの説明を受け「針が入ってからでもNOということができる」とか
「NOといったからといって、人からの評価が下がるようなことはない」などと
説明を受けています。

2週間前にエミリーは親友2人と一緒にピクニックに行き、
決心を伝えて、2人には納得してほしいから何でも思うとおりを言って、というと、
親友の一人が思いを込めて「やっぱりやめようかとか、気持ちが揺らぐことはないの?」と聞きます。

4日前から身辺整理を始めるエミリー。
大切な思い出の品について語り、人生を振り返っている様子も。

シャデンバーグも、
エコノミスト誌は安楽死推進の立場でこのビデオを製作している、と
指摘していますが、ナレーションの中には
「死ぬ権利」を人間の基本的な権利だと語る箇所もあり、

また決行日の直前に取材サイドはエミリーに
「もし安楽死が認められていなかったら、どうしていたと思いますか?」と質問しています。
答えは「何年もの耐えがたい苦しみの末に、結局は自殺していたと思う」。

ところが、夕方5時に安楽死が実行される予定の当日、
エミリーはいろんな人にお別れをして過ごしますが、
友人2人が訪ねてきて本当にやるのかと聞かれたけど、答えられなかったといいます。

医師がやってきた時に、エミリーは医師と話し合い、
冷静に「できません I cannot do it」と答えた、
「この2週間はどうしてだか、それほど生き辛くはなく、クライシスもなかった、
それが死の近くにいたからなのか、自分の中で何かが変わったのか、分からない」と。

シャデンバーグは、エミリーの翻意が想定外だったものだから、
ビデオは「それも選択」と描いている、と皮肉っていますが、

安楽死という選択があり「死ぬ権利」が認められることで、生きられる人もいる、
という捉え方をした上で、安楽死の対象者の範囲に問題提起をする、という終わり方。

ブリタニー・メイナードさんも、一時は気持ちを翻しましたが、
その後、宣言どおりの日に自殺されたことを思い、

この女性も、ふたたび、そこへ戻られることがなければいいが、と思います。

死にたいと思いつめるほど苦しんでいる人たちの気持ちは、
それほどまでに不安定なのだということ、

(例えば、あの友人2人がその日訪ねてきてくれたことが大きな歯止めになったんじゃないか、
あの2人がこなかったら彼女は安楽死していたんじゃないか、とすら思えるほどに
人の気持ちは不安定なものではないのか、と思うのです)

だからこそ社会が「死なせてあげる」という選択肢を用意し、
そこで対象者の拡大やスタンダードの変質が起こっていくことが危ういのだということを
改めて考えさせられます。


なお、シャデンバーグは当初の報道後の7月8日、
ブログに以下の「Lauraへの希望の手紙」を公開。

12500人以上が賛同の署名を寄せているとのこと。

Dear Laura:

Since we first read your story on June 19 in a Belgian newspaper, our hearts have been broken over the prospect of your impending death by lethal injection.

We have received many messages from people who want to contact you to share their story of living through similar psychological pain. These messages told us of their experience with suicidal thoughts and how they also wanted to die. These people also shared their stories of hope and of how they lived through the suffering and have found happiness in living.

They expressed how your story was a reflection of their story.

They want you to live. We want you to live.

At this moment, your life may seem dark and without a future, but we want you to know that there is help and there are people who want to care for you.

Everyone who has signed this letter wants you to know that they care about you. They also want you to know that your death may shatter the hope that many others, who suffer like you, are seeking.

We, the undersigned, ask you "Laura" to choose to live and by living you offer hope to others.

Alex Schadenberg
International Chair
Euthanasia Prevention Coalition