英国の移植医、「胎児に重篤な欠陥あったら、生んでもらって臓器ドナーに」

障害学のMLに流れたので、読んでみた。


妊娠中に胎児に致死的な欠陥が見つかって、
生まれてきても生存が不能と判明した場合、
たいていの人が中絶を選択しているが、

そういう人に対して、
産んで、死を待って臓器を提供するというオプションを認めようという話が、
乳児の提供臓器不足を愁う英国の移植学会で出てきている。

英国の移植待機リストは7000人で、
毎日3人が「臓器不足のために」死んでいる。

特に生後2ヶ月以下の乳児への移植は過去2年間に11件しかないので、
現在は海外からの臓器に頼っている。

この提案が実現できれば、それを年間100件にできる、という推計。

Mailの記事によると、

妊娠12週目。
最初のエコーをやるので、そこで胎児に異常が判明すると、
臓器提供のために、このまま妊娠を継続して生みましょう、と
母親は同意することができる。

37週目。
腎臓、心臓、肝臓、肺が十分に形成され、移植に使える状態となる。

40週目。
普通に出産し、生まれてきた子どもに医師が死亡を宣告し、臓器を摘出。

または脳死を宣告された後、
移植手術まで「臓器を新鮮に保つため」に
人工呼吸器をつけて(保育器で)「生かしておく keep alive」こともできる。

乳児の腎臓と肝臓の細胞は他の乳児に移植することはできないが、
小児の患者の治療に使うことができる。

以前のガイドラインでは、生後2ヶ月以下の新生児からの臓器提供はできなかったが、
昨年改訂されて、親の同意によって可能となった。

2014年に生後100分で死んだ Teddy Houlston君が英国で最も幼いドナー。
腎臓2つと心臓の弁が提供され、成人に使われた。

NHS Blood and Transplantは
新生児・乳幼児からの臓器提供増強のための委員会を立ち上げており、
親に話を切り出すためのスタッフ研修を進める担当として看護師が任命されてもいる。

移植医らの提案には、
助産師やその他のNHSスタッフを新たな選択肢に向けて教育することも含まれている。

推進派のJoe Brierley医師の発言がすごい。

'We are seeing more women saying, 'I don't think it is right to terminate.' It is then a case of them having conversations with NHS staff about the options.

中絶に抵抗感のある女性が増えてきているから、そういう事例で、
NHSのスタッフが臓器提供という「選択肢」の話を切り出す。

ただ、Mailの本文では、
女性が中絶をまだ決めていないうちはこの選択肢は提示されない、と書かれている箇所があり、
そこの矛盾については?


Bierley医師の言い分は以下。

People often don't realise amid the tragedy of a child's death that organ donation can happen. Often due to size issues, children's organs can only help other youngsters – but sometimes the smallest children's organs can also help an adult. In my experience, the overwhelming generosity of people in such sad times saves lives and can offer comfort to families going through bereavement.

……if a decision is made to continue the pregnancy for other reasons, then all palliative care options – including donation – ought to be discussed.


臓器提供は緩和ケアの一環……?

あぁ、例の「グリーフケアとしての臓器提供」なのか……。


聖メアリー大学の生命倫理学のディレクター、Trevor Stammers医師の言い分は以下。

The concept reduces the baby to nothing more than a utilitarian means to an end – a collection of spare parts – rather than respecting life for its own sake.

Yes, I know those organs can potentially save the lives of others, but at what cost to our humanity?

The integrity of transplant medicine has already been compromised by using organs from euthanised adults.

Raiding the bodies of children born only for their organs will further tarnish the profession – and could well lead to a broader decrease in the rates of organ donation.





思い出すのは、2012年に拾った、以下の情報 ↓


ここで提言されている臓器保存のための「選別的人工呼吸 elective ventilation」については ↓
「臓器提供の機会確保のための人工呼吸、義務付けよ」とWilkinson 1(2012/2/22)
「臓器提供の機会確保のための人工呼吸、義務付けよ」とWilkinson 2(2012/2/22)


上記のMailの記事には、
映画「私を離さないで」の1シーンと解説と、
米国で大きな倫理論争となったPlanned Parenthood スキャンダルのビデオがあります。

PPが「中絶胎児の組織を売買していた」という記事の説明は
事実認識としては、たぶん間違いですが、
このビデオの会話を聞いて私が背筋が冷えたのは、

そこから伺われるのが、
胎児の臓器を単なるバイオ資源としてやりとりすることに感覚が麻痺してしまった時に
人がどういう態度と口調でそれを語ることができるか、という例証だったから ↓


PPスキャンダルはその後、様々な紆余曲折を経て、思いがけない展開になりました。

Planned Parenthoodが中絶胎児の組織を売買していた疑惑が持ち上がっていた事件で、PPに入ったはずの調査の結果が、PPに違法行為なしとしたのはともかく、件の告発ビデオを隠し撮りした活動家らを、公文書偽造(科学研究所のスタッフと偽装するため身分証明書を偽造)と人体組織の売買を試みた罪で起訴された、という驚きの展開。
https://www.washingtonpost.com/news/post-nation/wp/2016/01/26/the-charges-against-anti-planned-parenthood-filmmaker-explained/?wpmm=1&wpisrc=nl_evening
http://www.chron.com/news/houston-texas/article/Harris-grand-jury-indicts-pair-behind-Planned-6782865.php

PP事件の新展開を受けてProPublicaがこの問題の情報整理。
https://ipolitics.ca/2016/01/26/assisted-dying-committee-told-parliament-has-ability-to-determine-age-criteria/

2016年1月29日のメモ