Adrienne Asch 死去

生命倫理学者/障害学者のAdrienne Aschが
19日火曜日にがんのためマンハッタンの自宅で死去。享年67。

ちょうどコメント欄で話題に出たばかりのEva Feder Kittayのコメントが
NYTに出ていて、

“She certainly was one of the pioneers in disability studies.”
“She was a very strong voice, always bringing in the disability perspective, trying to change the view of disability as some tragedy that happens to someone, rather than just another feature and fact about human existence.”

間違いなく障害学のパイオニアの一人でした。

たいへん強く声をあげた人でした。いつも障害者の視点からものを言い、人が生きて存在していることの単なる一つの特性や事実だと捉えるのではなく誰かに起こる悲劇として障害を捉える見方を変えようとしていました。

記事は、Aschの選別的中絶と出生前診断への批判を中心に、
彼女の業績をたどるもの。

Aschが女性の選択権を支持しつつ
障害理由による選別的中絶に反対した点について
同じくKittayは

you’re not seeking to abort ‘this particular child’. 

(障害とは無関係に妊娠そのものを望まない女性の中絶では)中絶しようとするのは「特定のこの子」ではない。

when you’re seeking to abort because of disability, it’s not ‘any potential child,’ it’s this child, with these particular characteristics.

障害を理由に中絶しようとする場合、それは生まれてくる不特定の子どもではなく、これこれこうした特定の特徴のある、この子どもなのである。


記事の最後に
Aschが1999年にthe American Journal of Public Healthに書いた論文からの引用がある。

If public health espouses goals of social justice and equality for people with disabilities ― as it has worked to improve the status of women, gays and lesbians, and members of racial and ethnic minorities ― it should reconsider whether it wishes to continue the technology of prenatal diagnosis.

もしも公衆衛生が、女性や同性愛者、民族的マイノリティの地位改善に努めてきたのと同様に、社会正義と障害のある人々の平等を支持するならば、出生前診断技術をつづけようとするのかどうか再考すべきである。

My moral opposition to prenatal testing and selective abortion flows from the conviction that life with disability is worthwhile and the belief that a just society must appreciate and nurture the lives of all people, whatever the endowments they receive in the natural lottery.

出生前診断と選別的中絶に対する私の道徳的な理由からの反対の背景にあるのは、障害のある生は価値あるものであるとの確信と、公正な社会なら自然のくじで何を引き当てていようと全ての人の生命を尊重し大切に育まなければならないとの信念である。






私はもともと知識がないので、
Aschという人は、Kittayと同じく、アシュリー療法を批判している人の一人として知った。

その後、やはりKittayと同じく、Aschも、
シアトル子ども病院成長抑制WGのメンバーとなった。

キテイはWGの結論には賛成も書名もしていないと言ったけれど、
Aschの方は署名をしたことを認め、それについて
「議論のプロセスへの賛意として署名したに過ぎない」と言い訳していた。

そういえば、あのWGには
ワシントン大学の障害学者、 Paul Steven Millerも含まれていて、
所属先が先だからなのか、本当に推進すべきだと考えていたものか、
Millerは成長抑制の重症児への一般化を支持する立場のようだったけれど、
この人も、WGの論文が発表されてまもなく亡くなった。

アシュリー事件にはこのように
障害学のパイオニアとされる著名な学者たちが関わっていたのだけれど、
ご本人たちの意図はともあれ、私には彼らは体よく「利用された」という観がある。

いずれにせよ、
WGの舞台裏を知る人がこうして減ってゆく。



【KittayのA療法批判については】
Eva Kittayの成長抑制論文(2010/11/7)
「成長抑制でパンドラの箱あいた」とEva Kittay氏(2010/11/23)

【AschのA療法批判については】
Adrienne Aschの、かなり醜い言い訳(2010/2/17)