神経筋疾患ネットワーク『でこぼこの宝物』

この前、
全国自立生活センター協議会(JIL)の全国研修にお邪魔した際に買い、
帰りの新幹線で読んで、心に強く響いてきたもの。



何が響いてきたといって、
最初の「出版に寄せて」の最初の数行に書かれていた
この本を出すきっかけになった神経筋疾患ネットワークのメンバーの言葉。

本出したいねん。私ら遺伝性筋疾患の当事者がどう生きているか、生まれてきてどんなに良かったと思ってるか書くねん。それを婦人科の待合室に置いてもらったらいいと思わへん?
(p.2)


3章構成になっていて、

第1章のタイトルは「私は今ここにいる 障害と一緒に」
地域で自立生活を送っている神筋ネットのメンバー5人によって
日常生活が軽いタッチでユーモラスに書かれている。

それは「出版に寄せて」で石地かおるさんが
「当事者たちの多くは、サポートを受けて、学校へ行き、恋愛をし、」
地域で暮らし、健常者とそれほど変らない生活をしています」と書いている
日々の生活の一コマであり、また「地域に出たからこそ経験できたこと」でもある。

介助者とのやりとりでの些細な誤解のおかしさや
ホテルを使いこなしてデートする恋愛体験や、

笑ってしまったのは「結婚」の4コマ漫画で、

夫婦喧嘩をして「出て行け」「じゃぁ電動車椅子に乗せて!」
仕方なく妻を抱えて車椅子に乗せると、出て行くときには
「ほな気いつけて行きや」になってしまう夫の心の妙。
あー、こういうのはあるだろうなぁ、と可笑しかった。

第2章は「楽しいよ 幸せだよ 生まれてきたから言えること」として
「お母さんへの手紙」と「お父さんへの手紙」の2本。

この章は、親である立場の私にとって
なによりも「親は死ぬものなのだ」という事実と直面するのが痛かったけれど、
親亡き後にも幸せに生きている人が書いていることが救いになって
痛いばかりではなくて、いろいろ受け止めつつ読み進むことができた。

親も子も揺らぎながら生きて、
親はいつか必ず死ぬんだなぁ
そして子はその後も生きていくんだなぁ……と
当たり前のことをとてもリアルに感じさせてもらった。

その後、身体障害の当事者で小児科医の熊谷晋一郎さんのコラムが入る。

熊谷さんは、当事者研究という自身の専門分野から障害について書いた後で、
「これから障害児を生むかもしれない人へのメッセージ」として
出生前診断について明確なメッセージを発している。

 障害児を生むかもしれない人に一番伝えたいこと。それは、障害児であろうが健常児であろうが、親だけで育てることは非常に難しいことなのだという事実です。…(中略)…
 育児は社会にヘルプを出しながら行うものです。
        
        (中略)

 未踏の社会に対して、失敗しつつも一歩を踏み出し続けられるのは、どこかで社会のこと、他人のことを信頼している子供です。……(中略)……
 子が社会を信頼できるようになるという意味でも、育児を抱え込まず、社会にヘルプを出す姿を見せることは大変重要になります。
(p. 48-49)


この熊谷さんのメッセージを受けて
第3章は「何か困った方は」

ページをめくると、
「この扉を開けてみて!」と
扉の絵が描かれている。

扉のページをめくると、
おなかの子どもに障害があるとわかったときに相談できる団体の情報と、
障害のある子どもを育ててきた家族の声。

安積遊歩さんや山田真さんも寄稿している。

読み終えて、思い出したのは
“Choosing Naia: A FAMILY’S JOURNEY”

このドキュメンタリーの中で、
おなかの子どもがダウン症だと分かって可能な限り誠実に
「選ぶ」ということと向き合おうとする夫婦のところに
遺伝カウンセラーから送られてくるパッケージが出てくる。

その情報パッケージの中には
医学的な関連情報とともに
ダウン症の子どもを持つ家族の会が作成したビデオも入っていた。

それを見て、この夫婦は
実際にそのように暮らしているダウン症の人とその親に会いに行くことを決意する。

そして最終的に2人は、「選ばないこと」を選ぶ――。



『でこぼこの宝物』の一番大きなメッセージは
最後の「神経筋疾患ネットワークとは?」に書かれている、
この1行だと思いました。

 私たちは、今生きていて幸せです。
(p.92)


ほんと、婦人科の待合室に置いてもらいたい本だと思います。


【2014年1月7日追記】
その後、著者のお一人から伺ったところでは、
メンバーの方々が手分けをして、
産婦人科の待合室に置いてもらえるよう
病院回りをしておられるとのこと。

返される病院もある一方で、
快く置いてくれる病院もあるそうです。

嬉しいですね!