「全国介護者カウンセリング・プログラム(豪)」

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介護保険情報』誌9月号の連載「世界の介護と医療の情報を読む」第87回。

全国介護者カウンセリング・プログラム(豪)

 オーストラリア健康高齢化省は2012年8月に「全国介護者レスパイト・プログラム(NRCP)」を発表した。NRCPそのものは「全国介護者アクション・プラン」の一環として1996年―97年度の予算措置で導入されたオーストラリア政府のプログラムだが、このたびのプログラムは、急速に進む高齢化への対応として2012年4月に発表された高齢者ケア改革10年計画を受けたもの。NRCPには5年間で3200万ドルの予算がつけられた。

このプログラムでは日本でレスパイトというとイメージされる「介護事業所による一時預かり」のほかに、ホスト・ファミリーによる一時預かりや、介護されている人の自宅でのレスパイト・サービス提供など、多様な形態のレスパイト・サービスが提供される。もうひとつ、NRCPでたいへん興味深いのは、その一環として実施されている「全国介護者カウンセリング・プログラムNCCP」だろう。運営は全国的な介護者支援組織であるCarers Australiaに委託され、そのネットワークを通じて各地域ごとに支部が担う。

このカウンセリング・プログラム、NCCPの目的は主として、介護者に特有のうつ状態やストレス、グリーフ(身近な人を喪った深い悲しみ)などに対応できる専門的なカウンセリングを短期に提供すること。対象となるのは65歳以上の高齢者(病気があれば50歳以上)、障害や慢性病のために複雑なニーズのある人、認知症の人、緩和ケアを受けている人、精神障害のある人の介護をしているケアラー。介護している人と同居している必要はなく、介護を終えたばかりの人や介護していた人を喪ったばかりの人も対象となる。ただし、あくまで一度に上限6回までとする短期のカウンセリングであり、長期にわたるトラウマや虐待など根の深い問題への長期セラピーを目的とするものではない。たとえば精神障害を診断されている介護者も介護に関連した問題ではNCCPの対象となるが、介護者の精神障害そのものへの対応は不可。具体的には「急性的な介護ストレス」「介護役割をめぐる困難」「介護を担ったばかり、または終えたばかり、介護のために仕事を辞めたばかりの人の移行の問題」「身近な人を喪った喪失感とグリーフ」「介護役割の直接的な結果として人間関係の葛藤または家族内の係争」。

 サービスの希望受付と給付決定は一元化されており、希望者は介護者アドバイス・ラインなどに電話(無料)やファックスまたは郵便で申し込み用紙を請求する。申し込み後インテイク(受付)カウンセラーのアセスメントを受け、サービスが認められるかどうかが後日通知される。電話でのカウンセリング、1対1の面接、グループ・カウンセリングを選ぶことができる。カウンセリング・サービスの利用は、NRCPの規定により応能負担が原則。

 Carers Australiaがケアラー向けに出しているNCCPのパンフレットには、次のような利用者の感想が書かれている。「命を救ってもらいました。ケアラーにとって自分を支えてくれる人がいると知っていること、財布の中にこの電話番号が入っていて、話をすれば聞いてくれる人がいると思えることは大事です。Carers Queenslandのような存在があるということは大きな違いになります。支援のライフラインですね」「(カウンセラーは)私にとって本当に命の恩人です。私の人生で最も困難な時を、彼女が乗り越えさせてくれました。素晴らしい仕事ぶりでした……」