高齢者施設の人権擁護NPOキャナー(米国)

これもエントリーにし忘れていた
介護保険情報』2013年1月号の
連載「世界の介護と医療の情報を読む」第79回


高齢者施設の人権擁護NPOキャナー(米国)
 
シンポジウム「日米の高齢者施設における人権擁護の現状」が10月26日に都内で開催され、高齢者施設の人権擁護に取り組む米国カリフォルニア州のキャナー(CANHR:Carifornia Advocates For Nursing Home Reform)から事務局長と弁護士が来日、参加した。主催したのは特定非営利活動法人Uビジョン研究所。

それを機に、今月はキャナーのHPを覗いてみた。その名称を直訳すると「ナーシングホーム(以下NH)改革のためのカリフォルニア州アドボケイト(権利擁護団体や活動家)」。1983年に設立されて以来、同州の介護消費者の選択、ケアと生活の質の向上に向けて活動している。直接的な権利擁護活動、地域教育、規制や訴訟を通じて介護消費者とそのアドボケイトに向け、法で規定された権利と改善策に関する教育と支援を行い、介護改革と施設入所に代わる選択肢の実現に向けて統一した声を挙げていくことを目的とするNPOである。

 消費者と専門職双方に向けた情報提供と啓発活動を行っており、介護消費者としてNH入居者と家族に向けて行っている情報提供では、州内1300のNHのデータベースの他、各種の手引書としてファクト・シートを多数用意。そのテーマはNH利用の他に、NHに代わる選択肢としてのアシスティッド・リビング施設や、医療保険・資産計画、高齢者虐待、法律問題がある。

NH利用のファクト・シートには、「入居者の権利」、「良質なケアを求めてアドボケイトとして行動するために」といった項目があり、例えば「病院の退院決定に抵抗するためのメディケア加入者の権利」「拘束しないケア」「介護施設での虐待予防ガイド」「苦情の申し立て方」「NHに家族委員会を組織する方法」など、多彩なシートが多数用意されている。また、それぞれ詳細かつ懇切な内容でもある。一部は日本語にも翻訳されている(http://www.canhr.org/factsheets/japanese_fs/)。

 また、専門職を対象にした啓発活動では、弁護士、リーガル・サービスやアドボケイトに向けた研修や実務支援、NHや病院のソーシャルワーカーを対象とした情報提供を行う。

 訴訟のページによると、キャナーは1985年以来、保健省に対して多くの訴訟を起こし、精神病薬投薬の前にインフォームドコンセントを行う権利の問題や、不服申し立てへの対応の遅れなどで勝訴を勝ち取っている。

今回のシンポで事務局長のパトリシア・マッギニス氏は、キャナー立ち上げ時にNH入居者の83%以上が拘束されるなど人権侵害が多発していたことに触れ、以下のように語っている。「サービスの質の改善には、訴訟を通じ、賠償金を支払わせることで、貧しいケアを提供するより、ちゃんとしたケアを提供する方が得だと思わせることが大切だと気付いた。そこで高齢者に関する法律に特化した研修を弁護士に対して行うとともに、組織としても弁護士を雇い、入居者や家族に高齢者法に詳しい弁護士を紹介するサービスを始めた」(注)。

弁護士紹介サービスの中でも目を引くのは、特にLGBTレズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダー)の介護における差別問題に特化した情報提供ページが設けられている目配りだった。

また薬物による拘束問題についても熱心なキャンペーン活動を行っており、同キャンペーンのページによると、現在でもカリフォルニア州のナーシングホーム入居者の4人に一人が向精神病薬を投与されている。この問題は当欄の10月号でとりあげたばかりだが、キャナーでは向精神薬の誤用の増加に歯止めをかけようと、各種の情報提供のほか、知事宛ての請願書に署名活動を展開している。

 キャナーのHPを読みながら頭に浮かんだのは、米国障害者権利ネットワーク(NDRN)のことだった。今年5月に報告書「障害者の軽視 市民権を侵害する医療」(9月号当欄で紹介)を出した。障害者の保護とアドボカシー(P&A)システムの全米ネットである。当欄で何度か取り上げたアシュリー事件(2007)に際して調査に入り違法性を指摘したのも、ワシントン州のP&Aだった。 P&Aシステムは連邦法・州法によって各州に設置が義務付けられ、虐待などが疑われる場合には介入や調査の権限が認められている。障害者の法的代理人となることもできる。

 日本でも高齢者虐待防止法に続いて障害者虐待防止法ができた。2009年には全国権利擁護支援ネットワークも立ち上げられている。法的基盤のある権利擁護システムの整備は、社会保障制度改革の一端としても重要ではないだろうか。

注 Uビジョン研究所のプレスリリースより。http://u-vision.org/media/canhr.pdf



このCANHR、どこかの州で
医師による自殺幇助合法化への反対の意見表明をしていて、
「あ、あのキャナーだ!」と、嬉しかった。

たぶん、ビル・ピースの意見陳述の関連でブクマした記事だった気がするので、
MA州じゃないかと思うのだけれど未確認です。