LCP適用を巡って、家族と医療サイドに新たな係争(英国)

Robert Gooldさん(69)はアルツハイマー病だった。

転んで首、背中、頭蓋骨とほほ骨を骨折し、
その後、脳出血を起こしたために
2013年2月3日に、Lister病院から
Addenbrooke病院のNCCU(神経科集中治療室)に転院した。

2月25日に死亡。

死後に検死解剖を行った法医学者は
「直接の死因は、頭部外傷、アルツハイマー病、肺塞栓による気管支肺炎。
なぜ積極的な治療が引き上げられたのか、その状況を懸念している」

家族は
亡くなるまで8日間もただ衰弱していくのを見ているのはトラウマになるほど辛かった、
物議をかもしているLCPの適用に同意してなどいない、と。

調査に対して、
NCCUの上級医師(麻酔科医)が
家族に対して特にLCPという名前を出したこともないし
その他の終末期パスについて話したこともない事実を認めた。

心停止を起こしたとしても蘇生は適切ではないというのが
医療チームの医学的見解でしたし、それは家族にもきちんと伝えていました。

彼が以前の機能レベルにまで回復することは見込めなかったし、
自然な死まで生きたとしてもその間はずっと(for the rest of his natural life)
24時間介護を必要とする状態だった可能性があります。

以前の話し合いからの私の理解では、
本人もそういう事態になることは望んでいないという
(家族の?)気持ちがはっきり語られていました。

検死官が
「栄養と水分の中止の欄にチェックが入っていますが、
家族と面談して、このパスウェイを使う決定をしましたとは言ってないんですね」

「そうですね。特にそうは言っていません」

審理は継続中。



ちなみにAddenbrookeといえば、Janet Tracy事件のあった病院 ↓
「本人にも家族にも知らせず“蘇生無用”」はやめて一律のガイドライン作れ、と英国で訴訟(2011/9/15)


この医師の発言とそこに見られる意識からは
昨年8月のLCP報告書が指摘している医療現場の問題点がいくつか読み取れる。

例えば、

① 蘇生無用DNR指定とLCPによる看取りケアへの切り替えとは別問題でありながら
そこが混同されている。

② LCPの適用の意思決定のプロセスに
家族が参加を求められていない。

③ LCP適用の決定について、その理由を含めて
家族に説明がされていない。したがって同意も求められていない。

④ 家族とのコミュニケーションさえ良好に行われていれば、
 避けられた可能性のあるトラブルや不満。


ここでもまた、米国のMcMath事件と同様に、
コミュニケーションを含め、医療サイドが「家族に寄り添う」姿勢の有無が
本当は問題の本質だったんじゃないのかなぁ、と思ってしまう。

それにしても、とても気になるのは
この病院の「無益な治療」論のスタンダード。

この医師の言葉から読み取る限りでは、
「元の機能レベルにまで回復しないなら無益」
「まだ生きられるとしても24時間要介助状態になるなら無益」

一応は自己決定らしきものを確認したように言われてはいますが。

今は「無益な治療」事件が植物状態や最小意識状態の患者さんで起こっていますが、
スタンダードがこのようにシフトしてくるなら、

いずれ脳卒中で重い後遺症が残った患者さんにも
「無益な治療」論の対象になる可能性が???

それとも、この医師は口に出していないだけで、
何よりも大きな決定要因はアルツハイマー病だったのでしょうか?