オランダのプライマリー・ケアでVSEDは既に広がっている


直前エントリーに引き続き、
  
Ann Fam Medに掲載された
オランダでのVSED(自発的飲食停止)の実態調査報告論文を。

Primary Care Patients Hastening Death by Voluntarily Stopping Eating and Drinking
Eva E. Bolt, MD, Martijn Hagens, MS, Dick Willems, MD, PhD and Bregje D. Onwuteaka-Philipsen, PhD]
Ann Fam Med September/October 2015 vol. 13 no.5 421-428




著者らは、2011年10月から2012年6月にわたって、
まずランダムに家庭医1100人に調査をおこない、
そのうちの500人に追加で直近のVSEDケースについてアンケート調査を行って、
オランダのプライマリーケアにおけるVSEDの実態を調べた。

イントロダクションとして著者らがVSEDに関して取りまとめている内容としては、

・終末期の患者の自律とコントロールが重要なテーマであること。
・PASと違って医師の同意とサポートを必要としないVSEDでは自律が拡大すること。

・VSEDに抵抗を感じる医療職がいる一方、
医療を拒否する患者の権利、苦しみから解放される権利として
医療職は患者のVSED希望を尊重すべきで、むしろ積極的にサポートする義務があると
考える医療職もあること。
・医師の役割として、相談、VSEDに関する情報提供、実施中の症状管理とサポート。

・医師の緩和ケアが必要になるのはVSEDによって、なかなか死ねないケースや
のどの渇きや飢餓、不穏、せん妄、家族の負担などの問題が起こりうるため。
・オランダの死亡件数のうち0.4%~2.1%がVSEDによるものでありながら
 VSEDで死を早める人の多くがいまだ緩和ケアを受けることができていない。

そこで、これらの課題を念頭に、現在、家庭医がどれくらいVSEDの要望を扱い、
どのようにVSEDに関与しているかを調べる目的で調査した、とのこと。

調査結果の主な点としては、

・オランダの家庭医の約半数がVSEDを経験している。
・VSEDで死を早めた患者の大半は80歳以上で健康状態のよくない人。

・VSEDで死を早めたい理由は身体的なものと心理社会的なものの両方。
・約半数強のケースで、他者への依存状態が直接的な理由となっていた。

・5人に1人はVSEDを決断する前にPASを要望していた。
・突然な死となるPASより、人生を振り返ったり家族とやりとりをする時間のある利点がある。
・年齢の中間値はPAS死者が69歳、VSEDでは84歳。

(論文では触れられていないけど、
 VSEDよりも前にPASを要望していたり年齢層が高いという点から、
 PASの要件を満たさず要望が却下された結果、
 PASを希望したけど認められなかった人とか、
 PASの対象者とならない比較的健康な高齢者がVSEDを選んでいる、という可能性は?)

・少量の水分だけは摂る人では、死ぬまでの期間が長びいている可能性がある。

・VSEDで死を早めた人の86%が他者のサポートを受けている。
・あらかじめ知らされていた家庭医は2人に1人のみ。
・家庭医の3人に1人はまったく関与しなかった。
・患者側が敢えて求めなかったり、医師に頼めることを知らなかったのでは。
・家庭医の側ではほぼ全員が必要なら緩和の鎮静を行う用意があった。

以上のことから、論文は以下のように書いている。

VSED is not uncommon in Dutch primary care, and it could be a relatively comfortable way to hasten death if sufficient palliative care is available. Our findings give family physicians some insight into what to expect if a patient decides to hasten death by VSED. Family physicians can play an important role in counseling the patient and their proxies and in providing palliative care. Attention should be given to mouth care and to the management of pain and delirium or agitation. Evidence-based clinical guidelines could help physicians providing palliative care.

VSEDはオランダのプライマリー・ケアで珍しいことではない。また十分な緩和ケアが行われれば、死を早める比較的安楽な方法でありうる。われわれの調査結果から、家庭医は患者がVSEDによって死を早めることを決意した際に何が起こるかがいくらかなりと分かるだろう。家庭医は患者と患者の代理人へのカウンセリングと緩和ケアの提供において、重要な役割を果たすことができる。重視すべきは口腔ケアと苦痛、せん妄や不穏の管理。エビデンスに基く臨床ガイドラインがあれば、医師が緩和ケアを提供する参考となるだろう。