「PAS合法化されていない州の人のため、VSEDにガイドラインを」とQuill医師

15日に以下のエントリーで紹介した論文は
同時に他の2本とあわせて掲載になったものだったので、
ちょっと間が開きましたが、その2本を読んでみました。



まずは、NY州、ロチェスター大学医療センターのTimothy Quill医師の論文。
ネットで全文が読めます ⇒ http://annfammed.org/content/13/5/408.full

15日のエントリーで紹介したJansen論文のタイトルが以下だったのに対して、
「自発的飲食停止(VSED)、医師幇助自殺(PAS)、それとも人生の最終段階でどちらもなしで? PASはNO。VESDは状況次第」

Quill論文のタイトルは、
「自発的飲食停止(VSED)、医師幇助自殺(PAS)、それとも人生の最終段階でどちらもなしで? 最後の手段としてどちらも利用可能であるべき」


Quill医師はもともとPAS合法化推進論者として有名な医師で、
Quill医師はじめとする推進派がVSEDを巡って主張するところが
簡潔に纏められたビデオがこちら ↓
NYTビデオ「死ぬ権利?」(2015/3/24)

この時に私自身の言葉で纏めてみたのは、以下 ↓

終末期の緩和ケアの技術は向上してはきたが、
それでも苦痛をとり切れない人は存在する。
PASが合法化されていない州に住むそういう人々は
現在では自分の死に方をコントロールするにはVSEDしか方法がない。
だから、全州で合法化すべきでは? という論調。


この論文も、
60歳のがん患者の男性がPASを希望したが
NYでは合法化されていないために、
医師としては代替手段としてVSEDを提案するしかなく、
患者自身はあくまでもPASを望み、納得できないまま
「最後の最悪の手段」としてVSEDを選ばざるを得なかった
というA・A氏の事例に沿って、上記のとおりの主張が行われて、

VSEDにもPADと同じくガイドラインが作られるべきだ、と結論付けられるもの。

それはつまるところ、
PASの一環としてVSEDを扱うべきだという主張では?

興味深い点として、Quill医師は冒頭で、
PAS(physician assisted suicide)ではなくPAD (physician assisted death)という
表記を推奨する理由を述べており、それによると、
医師が処方した毒物を飲んで死ぬことは「自殺」ではなく、
患者にとっては自己破壊というよりもむしろ自己保存のための行為なのだ、と説いている。

それから、非常に気になったのは、
VSEDに際してA・A氏は早期から鎮静されたのではないかと思われる以下の下り。

…… We maintained pain relief with a concentrated opioid infusion and kept his mouth as moist as possible. Family and friends said goodbye, and he gradually became sedated and died 10 days later.


終末期の緩和ケアにおいても、
症状緩和の手段としての鎮静と、「死を早めること」を目的とする積極的安楽死の区別は
極めて微妙だといわれることを考えると、

ここには、
本人が自発的に飲食しない決断をしたことを表看板にかかげ、
VSEDへの医師による緩和ケアの介入という口実で、
とても危ういリスクがチラついているような気がするのだけど?

あるいは、自己決定は前提としても
結局のところ英国のLCPで起こった「さっさと鎮静、そのまま脱水死」というケアへの
すべり坂が見えるような?