昨年の“アシュリー療法”NZ事例のニュースが、なぜか再燃

昨夜、久しぶりの出張から帰ってきたら
受信トレイにgrowth attenuationのアラートが入っていて、
「娘の世界広げるために、家族が障害のある子どもの成長を止める」というタイトルに
「げっ。また新事例か?」と、一人で色めき立った。

「働くのイヤだ」と抵抗しきりのボンヤリ頭を叱咤しつつ
以下の長大なAP通信の記事を読んでみる。



なんのことはない。
昨年5月に既に報道されたNZのCharley Hooperさんの話だった。


その後、今日までに同じAP通信の記事が
一家の様々な写真と共に、あちこちに掲載になっている。



取り立てて新しい進展がこのケースであったというわけではないのに、
なんで今更ことさらに報じる必要があるのかと不思議なのだけれど、
アシュリー事件では以前より、時々こういうことが起こってきた。

もしかしたら、近く関連した大きな動きがあるのかもしれない。


それはともかく、やたらと長い記事から、まずは
チャーリーさんのケースについて特にメモしておきたいことを以下に。

・チャーリーさんは現在、身長が1メートル30、体重は24キロ。

Whether Charley Hooper has any concept of the space she occupies in the world is an enigma.

Charley Hooper is so disabled that her mother considers her "unabled. At 10, her brain is believed to function at the level of a newborn's. "


unabledって、いったい英語ではどういうニュアンスなんでしょう?
障害があまりに重いと「障害児者」ではなく、別のカテゴリーの何かになる?


オークランドStarship子ども病院の小児内分泌医、Paul Hofman医師は
 最初の要望を聞いた際には間違っていると考えたが、
 実際に母親にあってみるとしごく論理的な話だと思い、説得されたという。

 しかし病院内倫理委はNZの支援は整備されているので必要なしと却下。

 そこで母親のJennさんは、ホルモン療法をやってくれるという医師がいる韓国へ行き、
 治療継続中で帰国すれば、安全を考えて地域のクリニックは引き受けざるを得まい、と考える。

(Jennさんはどうしてその韓国の医師を知ったのか?)
 
 子ども病院も同意し、4歳のチャーリーさんを連れて一家は韓国へ。
 ホルモン投与開始後数日で、チャーリーさんのけいれんが止まり、笑うようになった。
 手足の緊張も和らいだ。

 Hofman医師はエストロゲンが神経活動を変化させ、筋肉がリラックスしたのだろう、という。


・6歳時にホルモン療法の副作用で子宮からの出血があった。
 生理痛を案じた両親が婦人科医と相談して、
 生涯セックスにも妊娠にも同意できないのだから、と倫理委も同意し、
 7歳の時に子宮を摘出。

(ホルモン療法の副作用で子宮から出血したことが問題なのであれば、
 ホルモン療法を止めることを検討するのがまともな判断じゃないかと思うのだけれど。

 それから生涯セックスにも妊娠にも同意できないことが子宮摘出の正当化になるという
 倫理委員会の判断というのが理解できないのだけれど、記事そのものが
 Jennさんの解釈と語りに基づいて書かれていると思われ、この記事だけでは何とも言えない)


・4年かかったとの記述あり。

It took nearly four years before Charley stopped growing.

 Charley stopped growing が具体的に何を意味しているのか不明。
 ホルモン療法の効果が出るまで4年近くかかったということ? 
 それはエストロゲンの大量投与が4年近く続けられたということ?


・このケースでは特に熱心なお母さんの心理について、興味深い箇所が以下。

There is a fury behind Jenn's drive. Her words are often brittle, sometimes brutal, when she talks about the fate that befell her daughter. She acknowledges she will likely be angry for the rest of her life. But anger, she says, can be one hell of a motivator.


She has never bonded with Charley the way Mark has. To Mark, Charley is his daughter. To Jenn, she is more like a patient. That's largely because she has spent so much time focused on Charley's survival. She loves her, but in a slightly detached sense, the way an aunt might love a niece.

(中略)

Jenn has concluded that Charley has no idea she is her mother. Mark believes she recognizes them ― at least, he likes to think she does. "Don't you?" he murmurs, pressing his nose against hers.



“アシュリー療法”について、メモしておきたいことを以下に。

・アシュリーの事例を紹介した中で優生手術に言及があり、
 その次に以下の一文が、優生手術とアシュリー療法の子宮摘出を目的で区別している。

What is newer is the idea of stunting disabled children to ostensibly improve their lives.


・また、上記に続けて、以下のように書かれている。

More and more doctors have received requests for the treatment. A recent survey of the Pediatric Endocrine Society, most of whose members are in the U.S., showed that 32 of 284 respondents have prescribed growth-stunting hormones to at least one disabled child.

"As more people do it, it's less weird, it's less freaky," says Norman Fost, a bioethicist who supports the practice. "There's comfort in numbers."


(米国?)小児内分泌医学会の調査によると、回答者284人のうち32人が、
 少なくとも1人の障害児に「成長停止ホルモン」を処方したことがあると回答。

 ノーマン・フォスト医師は「やる人が増えれば、奇異ではなくなる、ヘンなことではなくなる。
 数が増えていることに、ほっとする」


・ヨーロッパ小児内分泌医協会の臨床委員会、委員長のGary Butler医師は
 障害児は早期に思春期を迎えるので何もせずとも体は小さ目なままになるといい、
 成長を侵襲的方法で止める必要などないし、障害児の尊厳と人権を守る必要がある、と。


・AAIDD(米国知的・発達障害協会)のCEO、Margaret Nygren氏も、
 誰にも本来なるはずの人へと成長する権利があるとし、
 本人の知らないあいだに同意もなく、こんなことは誰もやられたくないはずだ、と。


アシュリー事件の際に反対の立場からコメンタリーを書いたSue Swensonさんも登場していて、
 30歳で亡くなった息子さんは身長1メートル80で、体重86キロだったが、
 そのままで家族の一員としていろんな活動に参加したし、良い人生だった、と。

「言葉は話せなくても、どういう体験をしているかは分からないでしょう?
 もしかして、自分が他の人とは違う体に変えられてしまったと
 本当はちゃんと分かっていたら?」


【29日追記】
WP、Independentなど、各国メディア。上記のAP通信記事と違うもの、同じもの。
http://www.washingtonpost.com/news/morning-mix/wp/2015/10/28/botched-birth-leaves-new-zealand-family-with-a-hard-choice-stunting-their-disabled-daughters-growth/