拡がる“アシュリー療法” 少なくとも65人に

昨年夏、米国小児内分泌学会が発表した調査結果によると、
少なくとも65人の子どもが“成長抑制療法”を受けた、とのこと。
(ただし調査の回答率は30% それに、この数字、米国内の調査ですよね)

この調査については、以下のエントリーで紹介した記事でも言及されており、
ノーマン・フォストがコメントしているのですが、なぜかこの時は32人。人数が違う……。
昨年の“アシュリー療法”NZ事例のニュースが、なぜか再燃(2015/10/27)

調査を行った一人はDavid Allen医師。

彼は
2008年の小児科学会の成長抑制パネルの司会者で、
2009年の成長抑制論文の著者の一人で、
シアトル子ども病院の成長抑制WGのメンバーでもあり、
Norman Fostと同じウィスコンシン大学の小児科医。

以下のNYTマガジンの記事に登場している事例は
Ricky Preslar君(9)とNykkole さん。

NM州のRicky君は
コロラド子ども病院の倫理委員会の承認を経て、
Michael Kappy医師により4歳から7歳までエストロゲンの大量療法を受けた。
身長は43インチ(約109センチ)で止まっている。

当初は毎日2ミリグラムだったが、
アシュリーの親がやっているブログでエストロゲンの適用外処方には上限はないこと、
容量が多ければそれだけ身長を低くできることから
親の方から医師に提案して、3年間は1日8ミリの処方。

なお、Kappy医師も、上記2009年の成長抑制論文の著者の一人。
(当時はデンバー子ども病院所属だった)

途中で副作用で胸が膨らんで、Kappy医師は乳房切除術を勧めたが
親は拒否。

気になる記述として、
スタート時には骨年齢16歳を目標としたが、
足指が紫になってきたので副作用の血栓症が疑われ、
骨年齢15歳でエストロゲンを中止した、とのこと。
(これ、ものすごく恐い話だと思うんですけど?)

……because growth-attenuation therapy for very young children is so new and unstudied, its prolonged effects on their bodies remain unknown.

幼い子どもへの成長抑制療法は非常に新しく、まだ研究されていないため、
子どもたちの身体への長期的な影響は未だにわからないままである。


Nykkoleさん(批判を恐れて苗字は明かされていない)は
“アシュリー療法”3点セットが実施された世界で第2例めだと
養親である母親 Nancyさんは考えている。

行ったのはthe University of Minnesota Masonic Children’s Hospital。

ということは、以下の内、仮名でEricaとされているミネソタ大の事例と思われます。



Nancyさんの象徴的な発言があり、

She’s going to be a baby all her life in her brain.


We brought her out of her chair and into our laps, and said、“This is why we want to do this. She needs to be in our laps for our whole life.”


その他、著者のGenevieve Fieldが取材しているのは、

Sandy Walker。



Eva Kittay,。



Philip Zeitler。

Auroraの子ども病院の内分泌科のトップで、
水面下で行われている“成長抑制療法”には登録システムを作って効果を検証することが必要だが、
そうなると安全性を確認できないうちはFDAが認可しないだろうという問題がある、と。


Douglas Diekema。

興味深いのは、アシュリーの担当生命倫理学者だったDiekema医師の発言で、
2007年の報道から後、自閉症の子どものかんしゃくを抑制できるのでは、という相談を含め、
多くの希望者からの連絡があり、
たいていはアシュリーの親のブログのネットワークを頼るようにアドバイスしてきた。

少なくとも10の小児科病院で倫理委に諮ったことがあると思うが、その結果は知らない。
表ざたにしたくない医師や病院が多いため実態把握は難しい。

ディクマ医師としては、成長抑制療法は
認知機能が極めて低い子どもに限定されるべきなので、
きちんと発達の専門医のアセスメントを受けて検討すべきであり、

…… anyone doing this has to think hard about ‘How sure of the prognosis are we?” Not everybody is very good at parsing out what’s a communication problem and what’s actually going on in the brain. And I do think you need a fail amount of certainty there.

成長抑制をやろうとする人は”予後について本当に確信が持てるか”、
真剣に考えなければならない。

意思疎通の問題と、実際に脳で起こっていることとの区別を
誰もがきっちり区別できるわけではないし、
この問題では、そこに相当の確信が必要だと思います。


記事は「そんな確信が保証しうるか」と問い、
身体障害が重い人では知能が大幅に低く見積もられがちだとの調査結果は沢山ある、と指摘する。


同様に
発達の専門医への相談なしに行われすぎているのでは、と懸念するのが、Karrie Shogren。

カンザス大学発達障害センターの共同ディレクターの一人。

障害者の統合(affiliation インクルージョンと同意?)や支援が弱いところで
行われている傾向があるのでは、とも懸念。

また、以下の指摘が非常に興味深い。

“there’s an inherent conflict between the Ashley Treatment and the current way of thinking about disability,”

At its core, the battle over growth attenuation is a battle between old and new ways of thinking about disability: the old “medical model,” which regards disability as a problem to be fixed, and the new, “social model,” which frames disability as a natural facet of the human experience. The social model promotes self-determination for those who have even the most complex disabilities; society should adapt to them, not the other way around.

 成長抑制をめぐるバトルは、根っこの所で、障害に対する古い考え方と新しい考え方のバトルである。つまり、障害を修正すべき問題と捉える古い「医学モデル」と、障害を人が生きていく経験の中に含まれる当たり前の一面と捉える新しい「社会モデル」との。社会モデルは、どんなに複雑な障害を持った人にも自己決定を推進する。すなわち、社会が彼らに適応すべきなのであり、その逆ではないのだ。







【25日追記】
このNYTの記事を、早速に米国薬剤師協会が拾っている ↓
http://www.pharmacist.com/should-parents-children-severe-disabilities-be-allowed-stop-their-growth


【4月1日追記】
アシュリー父のサイトに、昨年夏に発表された「レター」があった。
「米国内分泌学会がやった」調査ではなくて、
ウィスコンシン大学のフォスト、アレンともう一人が
内分泌学会の会員を対象に行った調査。