痛みのアセスメントと治療における人種間格差 (米)
元論文はこちら ↓
Racial bias in pain assessment and treatment recommendations, and false beliefs about biological differences between blacks and whites
Kelly M. Hoffman, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences, April 4, 2016
Racial bias in pain assessment and treatment recommendations, and false beliefs about biological differences between blacks and whites
Kelly M. Hoffman, et al.
Proceedings of the National Academy of Sciences, April 4, 2016
Black Americans are systematically undertreated for pain relative to white Americans. We examine whether this racial bias is related to false beliefs about biological differences between blacks and whites (e.g., “black people’s skin is thicker than white people’s skin”). Study 1 documented these beliefs among white laypersons and revealed that participants who more strongly endorsed false beliefs about biological differences reported lower pain ratings for a black (vs. white) target. Study 2 extended these findings to the medical context and found that half of a sample of white medical students and residents endorsed these beliefs. Moreover, participants who endorsed these beliefs rated the black (vs. white) patient’s pain as lower and made less accurate treatment recommendations. Participants who did not endorse these beliefs rated the black (vs. white) patient’s pain as higher, but showed no bias in treatment recommendations. These findings suggest that individuals with at least some medical training hold and may use false beliefs about biological differences between blacks and whites to inform medical judgments, which may contribute to racial disparities in pain assessment and treatment.
ヴァージニア大学の心理学の博士号取得候補者を筆頭著者とする論文。
① 一般の白人92人と、②白人の医学生と研修医222人に対して
黒人と白人のあいだの生物学上の違いについて書かれた、
正しい内容の記述と誤った内容の記述をいくつか見せて、
それらが事実だと思うかどうかを訪ねたところ、
黒人と白人のあいだの生物学上の違いについて書かれた、
正しい内容の記述と誤った内容の記述をいくつか見せて、
それらが事実だと思うかどうかを訪ねたところ、
例えば「黒人の皮膚は白人よりも厚い」とか
「黒人では白人よりも血が早く凝固しやすい」などの記述を事実だと考えた人が
一般人の58%いただけでなく、
医学部の1年生と2年生でも40%、
研修医でも25%もいた。
「黒人では白人よりも血が早く凝固しやすい」などの記述を事実だと考えた人が
一般人の58%いただけでなく、
医学部の1年生と2年生でも40%、
研修医でも25%もいた。
逆に、
「黒人のほうが白人よりも心臓病にかかりやすい」という記述が
事実として正しいと知っていたのは、研修医の半数のみだった。
「黒人のほうが白人よりも心臓病にかかりやすい」という記述が
事実として正しいと知っていたのは、研修医の半数のみだった。
さらに②のグループには、
白人と黒人それぞれ一人ずつの事例研究の概要を読んでもらい、
それぞれの痛みの評価とどういう治療が必要と思うかを述べてもらった。
白人と黒人それぞれ一人ずつの事例研究の概要を読んでもらい、
それぞれの痛みの評価とどういう治療が必要と思うかを述べてもらった。
経験を積んだ10人の医師が人種を伏せて同じ事例研究を読んで提案した治療内容と
彼らが提案した治療内容とを比較したところ、
彼らが提案した治療内容とを比較したところ、
最初の調査で誤った記述を事実だと思いこんでいた度合いが大きな人ほど、
より偏見が強く、治療の判断が正しくないとの結果となった。
より偏見が強く、治療の判断が正しくないとの結果となった。
これからの調査結果から、
少なくとも何らかの医学的トレーニングを受けた人にも
黒人と白人のあいだの生物学的差異について誤った思い込みがあり、
それらが医療の判断に影響している可能性があることが伺われる。
このことが、
痛みのアセスメントと治療の人種間格差につながっている可能性がある。
(ゴチックはspitzibara)
少なくとも何らかの医学的トレーニングを受けた人にも
黒人と白人のあいだの生物学的差異について誤った思い込みがあり、
それらが医療の判断に影響している可能性があることが伺われる。
このことが、
痛みのアセスメントと治療の人種間格差につながっている可能性がある。
(ゴチックはspitzibara)
なお、ここで言及されている「痛みのアセスメントと治療に人種間格差がある」とことは、
先行研究がいくつもあり、事実とされてきたとのこと。
先行研究がいくつもあり、事実とされてきたとのこと。
この記事の中で触れられている先行研究は以下の3つ。
① ERでの骨折患者への鎮痛剤処方における人種間格差
今回は、黒人と白人で比較しようとの調査。
1992年9月1日から1995年12月末までに
ジョージア州アトランタの街中にあるERを受診し
他の疾患を伴わない初めての四肢の長骨骨折と診断された人
217人(黒人127人、白人90人)のカルテを分析したところ、
1992年9月1日から1995年12月末までに
ジョージア州アトランタの街中にあるERを受診し
他の疾患を伴わない初めての四肢の長骨骨折と診断された人
217人(黒人127人、白人90人)のカルテを分析したところ、
四肢の骨折できた黒人患者の57%が鎮痛剤をもらったのに対して、
白人患者では74%がもらっていた。
まったく痛み止めをもらえないリスクは
黒人患者では白人患者よりも66%大きい。
白人患者では74%がもらっていた。
まったく痛み止めをもらえないリスクは
黒人患者では白人患者よりも66%大きい。
黒人患者は白人患者ほど頻繁に鎮痛剤をもらえていないとの我々の調査結果は、ヒスパニック系の患者は白人患者ほど頻繁に鎮痛剤をもらえていないとの我々の前回の調査結果に似ている。また、がん患者をめぐって、人種的マジョリティとマイノリティの間で鎮痛剤の使用に格差があるとする最近の2つの研究結果とも一致している。
(ゴチックはspitzibara。後者のゴチック箇所の2つの研究の情報は、④と⑤として追記)
(ゴチックはspitzibara。後者のゴチック箇所の2つの研究の情報は、④と⑤として追記)
我々の調査の結果から、患者の人種が、客観的な臨床基準とは関わりなく、意思決定に影響していることがうかがわれる。
② プライマリ・ケアでの患者と医師との痛みの捉え方のギャップに見られる人種間格差
When race matters: disagreement in pain perception between patients and their physicians in primary care
Staton LJ, et al.
J Natl Med Assoc, 2007 May
Staton LJ, et al.
J Natl Med Assoc, 2007 May
Patients and physicians often disagree in their assessment of pain intensity. This study explores the impact of patient factors on underestimation of pain intensity in chronic noncancer pain. We surveyed patients and their physicians in 12 primary care centers. To measure pain intensity, patients completed an 11-point numeric rating scale for which pain scores range from 0 (no pain) to 10 (unbearable pain). Physicians rated patients' pain on the same scale. We defined disagreement of pain intensity as underestimation or overestimation by 22 points. Of 601 patients approached, 463 (77%) completed the survey. The majority of participants were black (39%) or white (47%), 67% were female, and the mean age was 53 years. Physicians underestimated pain intensity relative to their patients 39% of the time. Forty-six percent agreed with their patients' pain perception, and 15% of physicians overestimated their patients' pain levels by > or =2 points. In both the bivariate and multivariable models, black race was a significant variable associated with underestimation of pain by physicians (p < 0.05; OR = 1.92; 95% CI: 1.31-2.81). ‘’’This study finds that physicians are twice as likely to underestimate pain in blacks patients compared to all other ethnicities combined. ‘’’A qualitative study exploring why physicians rate blacks patients' pain low is warranted.
12のプライマリー・ケア・センターで、非がんの慢性病患者とそれぞれの主治医とに
痛みの度合いを0から10の11段階で評価してもらったところ、
痛みの度合いを0から10の11段階で評価してもらったところ、
黒人患者では、それ以外の民族的帰属の患者と比べて、
医師が本人よりも痛みの程度を低く見積もる確立が2倍高かった。
医師が本人よりも痛みの程度を低く見積もる確立が2倍高かった。
③ 盲腸炎の子どもの痛み管理における人種間格差
Racial Disparities in Pain Management of Children With Appendicitis in Emergency Departments
Monika K. Goyal, et al.
JAMA Pediatrics, November 2015, Vol 169, NO. 11
Monika K. Goyal, et al.
JAMA Pediatrics, November 2015, Vol 169, NO. 11
④ 癌患者での痛みのコントロールにおける人種間格差
Pain and treatment of pain in minority patients with cancer. The Eastern Cooperative Oncology Group Minority Outpatient Pain Study.
Cleeland CS, et al.
Ann Intern Med, 1997 Nov.
Cleeland CS, et al.
Ann Intern Med, 1997 Nov.
結論は
⑤ ナーシングホームのがん患者での鎮痛剤処方における人種間格差
Management of pain in elderly patients with cancer. SAGE Study Group. Systematic Assessment of Geriatric Drug Use via Epidemiology.
Bernabei R, et al.
JAMA 1998 Jun 17
Bernabei R, et al.
JAMA 1998 Jun 17
ナーシングホームのがん患者での鎮痛剤処方の適正を調べたところ、
結論は、
癌を患うナーシングホーム入所者の間は、毎日の痛みは広範に存在するが、
特に高齢者やマイノリティの患者では、十分に治療されていないことが多い。
特に高齢者やマイノリティの患者では、十分に治療されていないことが多い。
娘が腸ねん転の手術後に痛み止めを使ってもらえなかった体験から
私はずっと気になっています。
私はずっと気になっています。
この問題が日本でもきちんと認識され、対応されて解消されない限り、
終末期の緩和ケアへの信頼も持ちきれず、
終末期の緩和ケアへの信頼も持ちきれず、