リバプール・ケア・パスウェイに関する調査報告書(英) 3

前のエントリーからの続きです)


より広範な問題
しかし問題は個々のアプローチの手直しで解決できるものではなく、死にゆく人へのケアに関する、もっと広範な問題。

環境と備品
触れる人は少なかったが、患者に提供される環境と備品など施設面での問題も。患者と家族が自分たちだけで語り合える場所やスタッフと話し合える場所、大事な人を亡くした人へのサポートも足りない。

アカウンタビリティ
死に瀕した患者やその親族と介護者には、対応責任者として(研修医ではない)医師またはGPが担当することが必要。力量があれば看護師でも可。ケアの責任者として最初から担当し、説明する責任も負う。そうしたシステムを病院も整備する必要がある。

思いやり(共感)のあるケア
ここも全文を。

During this Review, the panel heard of far too many instances where the commencement of the LCP has led to a withdrawal of care, in some cases with relatives and carers left to do the caring themselves as much as they could. Caring with compassion for people at the end of their lives should be the aim of all doctors, nurses and healthcare staff. Good care for the dying is as important as good care at any other time of life.

今回の調査の過程で、委員会はLCPが始まるとケアが引き上げられたというあまりに多くの事例、その結果、親族と介護者が自分たちでできるだけのケアをする以外にないというケースまで耳にした。終末期の人に思いやりあるケアをすることは全ての医師、看護師、医療職の目指すべきところのはず。死にゆく人に良いケアをすることは、人生のどの時期での良いケアとも同じく大事なものである。


記録と終末期ケアプラン
患者と家族がこれから起こることに対して自分たちはなすすべがないと感じることがないよう、ケアプランについて話し合うことが必要。その内容と決定事項の記録も不可欠。親族も介護者もいない患者は代理者をもてないので、GPか地域の責任ある医療職(看護師も可)が関与すること。病院にはそうしたケアをシェアするためのシステム構築が必要。

高齢者のケア
ここも全文を。

Evidence from relatives and carers strongly suggested that care of the dying elderly is of the greatest concern: the Review panel suspects that age discrimination is occurring, which is unlawful. Nor should old age be taken as a proxy for lack of mental capacity. Each patient lacking capacity, of whatever age, on the LCP or a similar approach, should be represented by an independent advocate.

親族と介護者から出てきたエビデンスでは、死に瀕した高齢者のケアには重大な懸念がある。調査委員会は高齢者差別が起こっていると考えている。高齢者差別は違法である。また高齢だからというだけで意思決定能力がないと決め付けてはならない。意思決定能力を欠いた患者は、何歳であろうと、またLCP適用であろうと類似のアプローチ対象であろうと、独立したアドボケイトによって代理されるべきである。(ゴチックはspitzibara)


人員と備品の不足
人数の面でも力量の面でも死にゆく人をケアするスタッフの不足が深刻。特に週末と時間外のサービス不在の問題。緩和ケア・サービスは現在の断片的な提供状態から脱却する必要がある。特に半数が病院で死ぬ現状から、病院の責任は大きい。

コミュニケーション
親族と介護者のいうことが一貫性を持つためには、死ぬことを巡る国民的な議論が必要。医療職にも技術的な知識や臨床スキルのみでなくコミュニケーション・スキルが必要。

研修
様々な医療関連組織が研修には力を入れてきているが、指針はGMCから医師向けに出ているのみなので看護師への指針が早急に必要。

一人ひとりの患者に終末期ケアプラン
LCPのような包括的なプロトコルではなく、病気群ごとに特化した詳細な技術的な指針を含めた緩和ケアの共通原理を作る必要がある。それら指針は患者個々のニーズに応じて運用されるように作る必要がある。(ハイライトはspitzibara)

この後に書かれた以下の箇所のみは、報告書の結論にも通じていくので英文とも。

Use of the Liverpool Care Pathway should be replaced over the next six to 12 months by an end of life care plan for each patient, backed up by condition-specific good practice guidance.

LCPの利用は今後6から12ヶ月間、症状中心のグッド・プラクティス指針に基づいて一人ひとりの患者に作られる終末期プランで代用されるべきである。


終末期ケア改善のためシステム全体のアプローチを
終末期ケア改善にはシステム全体の見直しが必要であり、ケアの質コミッションが関連機関と連携しつつ目指すべきスタンダードを設定し、それらが病院監査の新たプログラム等と関連付けられることが大切。このたびの調査で明らかになったのは医療職の閉鎖性、思いやり(共感)の欠落、スキルと力量不足、患者や親族や介護者を第一に置き尊厳と敬意を持ってケアする姿勢の欠落。委員会としては政府が死にゆく人のケアの質改善をNHSの最重要課題と位置づけ、これから出される「高齢弱者プラン」にも盛り込むことを勧告する。このたびの調査で最も深刻な懸念は、医療職が既存の指針を遵守していない事実。それゆえに政府の改善努力が求められる。(ハイライトはspitzibara)


最後に以下のように書かれている。

調査委員会はこの点について重視し、委員の費用負担と自発的意思により、この勧告に対してどのような対応がされるかを詳細にモニターすべく、集まりを続ける。



ちなみに、前述の生命倫理学者のポウプは
医師の指示書として書かれるPOLSTにも同様の濫用のリスクがあるとブログで指摘しています。

LCPもPOLSTもともに日本でも導入されているものです。