日本社会臨床学会シンポ 「生命の変化を考える~胎児診断と延命医療の現状から」報告

いつもお世話になっているkar*_*an28さんからのいただきもの。

『社会臨床雑誌』第21巻第2号掲載の
日本社会臨床学会第21回総会報告(201年5月18~19日)の
シンポジウムⅡ 「生命観の変化を考える~胎児診断と延命医療の現状から」報告。

特に興味深かったのは、山口研一郎氏による話題提供2.

タイトルは、
国策としての「脳死・臓器移植」「安楽死尊厳死」~背景にある「優生思想」と「人体利用」


 今回私が、話のテーマを「国策としての『脳死・臓器移植』『安楽死尊厳死』としたのは、「命の選別や短縮化」が国策として進んでいるのではないかと考えたからです。その背景にあるのは「優生思想」と「人体利用」ではないでしょうか。…(中略)…今の医療は、人々同士の関係を分断する方向に動いている感じがします。
(p.61)


 医療・医学には、国策(人体実験)による人民の犠牲(見殺し)に加担してきた歴史があるのではないかと感じています。
(p.62)


その事例としては3つ挙げられており、

七三一部隊」を中心とした生物(細菌)・化学兵器の研究・開発

原爆投下後のABCCを通じた研究
(「これは、アメリカ軍が日本の医学者と協力して行った人体実験です」p. 62)

また、愛と祈りの人として美化され英雄視されてきた永井隆医師が
実際には原爆投下を「神から与えられた試練」と称し、
原子力エネルギー利用を説いた事実を指摘。

同じことが福島でも医療者によって繰り返されているのでは、との懸念も。

 「薬害エイズ」事件
  これもまた、ある意味では国策としての人体実験、感染実験だったのでは、と。


これらを指摘した上で、山口氏は以下のように言う。

医療・医学の歴史は、国策によって犠牲者をつくり出し、それを踏み台にして新たな国策を進めていく構図が出来上がっている。その観点から、今の「脳死・臓器移植」や「尊厳死安楽死」もみていかなくてはなりません。
(p.63)


臓器移植については、
移植業界での医師らの率直な発言が多々引かれていて、
人を資源化し、自殺者であれ知的障害者であれ「人体利用」のためには
ほとんど手段を選ばない移植医らのホンネが炙りだされている。

(その内容は、
これまでmoritaさんなどからの情報で触れてきたものが大半だったし、
グリーフワークすら臓器移植推進のツールと化している実態も
kar*_*an28さんの書かれたものなどで指摘されていたので
特に目新しい情報ではなかった)


尊厳死法制化については

高齢者、特に社会(お国)の世話になる障害や難病を持つ高齢者や虚弱高齢者には適当な時期に亡くなっていただこう、というのが現在の国の政策(国策)ではないでしょうか。…(中略)…高齢者の命を断つためには現場の医療者の協力が欠かせません。国策に従って(国策を推進して)くれる医師たちが罰せられないようにすることに、まず第一の目的があるのではないでしょうか。
(p.65)


個人的に一番「鋭い!」と感じたのは
再生医療に関する以下の4点の指摘。

再生医療は究極の「人体利用」である。

② 再生医療には「優生思想」が内包されている。
最終的には「健全」で「健康」な人を作るための「人体改造」へと利用される。

「産官学共同」の研究・開発により特許を生み出し、企業利益へと繋がる。

生体から作られるES細胞やiPS細胞には未知の病原微生物混入のリスクがあり、
第二の「薬害エイズ」を引き起こす可能性がある。


このうち、③は前のブログでの一大テーマだったから、はっきり頭にあったし、
他にも①と②もある程度までは了解事項だったけれど、
④はちょっと意表を突かれる感じだった。なるほど~。


その他、話題提供1は、
小児科医であり障害のある子どもの親でもある梅村浄氏による
「小児科医の立場から出生前診断について考える」

話題提供3は
毎日新聞記者の八木晃介氏による
「反差別の視点から医療を考える」

どちらも、ほぼ知識の範囲内だったけど、
パワフルな論考を読んだ、という感じ

八木氏の話題提供の中には、
実は高齢者医療にはさほどの金はかからないという
データが2つ出てきているのと、

「枯れ木に水」論という表現と、
今の尊厳死法制化議論が太田典礼の言説そのものだという指摘、

それから以下の指摘が印象的だった。

つまり、消費税増税社会保障は全然連動していない、「一体改革」はインチキだということです。
(p.72)

最後に、「不治」ではあっても「末期」ではない存在の抹殺策動が強化されている点を指摘したいと思います。…(中略)…治療や寛解の可能性がある場合でも「終末期」とみなして治療を放棄する、いわゆる「みなし末期」の観点が流通しつつある現実にも十分な注意が必要だと思います。
(p.73)