母を殺す男たち

英国では
女性が週に2人の割合で
現在あるいはかつてのパートナーに殺されている。

その一方、息子に殺された女性が
2012年には16人。
2013年には12人。
今年に入ってすでに母親を刺した容疑で起訴された男性が2人いる。

その中の少なくとも4人のケースで
いわゆる「慈悲殺」が裁判での弁護に使われ、
母親を殺した後で自殺した一人のケースでもほのめかされた。

母親を殺した残忍さからは慈悲などかけらも感じられないケースもあるが、
苦しみを終わらせてやりたいと望んだ可能性がリアルなケースもある。

安楽死、自殺幇助、そして/または死ぬ権利は
決して他者への負担となる恐れのために死ぬ義務となってはならないし、
コストや介護の困難が殺す理由として許容されてはならない。

厳格な倫理的法的な枠組みとガイドラインが必要である。
しかし自殺幇助への手段が法的選択肢と認められようと認められまいと、
母親殺しは起こるだろう。

息子に殺された女性の平均年齢は63歳。
母親を殺した息子の平均年齢は35歳。
著者が人種を調べることができた範囲では
母親殺しは人種を問わず起こっている。

息子が母親を殺した、あるいは殺したと疑われるケースの約半数で
ドラッグとアルコールとメンタルヘルスの問題が挙げられている。

メンタルヘルスの問題やアルコールや薬物の乱用が
女性への暴力の原因となったり母親を殺す原因になるというわけではないし、
それらの問題を抱えた男性の多くは一度も暴力をふるったことのない人たちである。
1年間に4人に一人がメンタル・ヘルスの問題を経験しているのだから
明らかに、その大多数は暴力行為に走っていない。

しかしメンタルヘルスの問題と暴力の関連を示唆する研究もあり、
リスク要因ではある。

そこにさらにアルコールや薬物の乱用や人格障害が加われば
リスクが大きくなることが分かっている。

アルコールや薬物乱用の問題がない人や
メンタルヘルスの問題を経験したことのない人の中で言っても、
男性が母親を殺す確率は女性が母親または父親を殺す確率よりも高い。

原因が何であれ、医療職は
女性に対して暴力を振るったことのある男性の
パートナーだけでなく母親へのリスクも深刻に受け止めなければならない。

これまでに母親を殺したか、または殺したと疑われるケースでの
息子による殺害方法は、

・金属製の像で殴って首をかききる  1人
・複数の傷と首の切断        1人
・複数の傷、体と首の切断      1人
・銃殺               2人
・鈍的外傷             2人
・絞殺               4人
・刺殺               9人
・窒息               4人
・平手打ちと突き飛ばしで心臓病による死が引き起こされた  1人
・頭部の傷             4人
・非公開(まだ裁判になっていない) 1人

母親、パートナー、その他、女性に対する男性の暴力を考える際に、
女性に暴力をふるわない男性に比べて加害者により女性差別的な傾向があるかどうかが
メインストリームの分析で問われることは少ない。

そうした分析でよく検討されるのは
メンタル・ヘルスの問題、感情の問題、雇用と経済の問題、
嫉妬、「拒否的な物言い」や「口論」で、
目に見えるものが重要ということになってしまうが、

我々があらゆる形態の男性による女性への暴力を分析する際にも
それを終わらせようとする取り組みにおいても、
男女間の不平等、社会による男性性と女性性の捉えかた、
差別意識、女性を性的な対象物とみなすことや女性蔑視を
中心に据える必要がある。

Mother Killers
Huff Post, March 19, 2014


日本の高齢者虐待でも
加害者は息子が最も多く、4割。

前に、英国の女性ジャーナリストの
「なぜ自殺幇助合法化の闘士たちには女性が多いのだろう?」
また、なぜ彼女たちのパートナーはそういう話に
ニコニコしているのだろう?」という疑問と、

川口有美子氏の「逝かない身体」で読んだ
「世話をする人」としての役割を果たせなくなったことに負い目を感じて
人工呼吸器装着の選択ができない女性ALS患者さんについて
以下のエントリーで書いた。