「孫を育てながら働く高齢女性、不況で増加」

孫を育てながら働く高齢女性、不況で増加

国労働組合会議(TUC)から2月27日に、50歳以上の働く女性に関する詳細な報告書、「年齢なんて関係ない 50歳以上の働く女性たち(Age Immaterial Women Over 50 in the Workplace)」が刊行された。2012年の労働者調査で高齢期の女性労働者の問題が炙りだされたのを機に、TUCが実態調査に乗り出したもの。高齢女性ではゼロ時間契約(2013年12月号の当欄を参照)を含めたパートタイムで働く人が多く、その年収は多くの場合1万ポンド(約170万円)に満たない。研修の機会も少なく、そのため低賃金や不安定雇用に留まらざるをえないことに加えて、昨今の医療と社会ケア、育児サービスなど社会保障の削減で、特に50歳以上の女性は介護と仕事を両立させることに苦労し、心身の健康に影響が出ている。

報告書は、ゼロ時間労働の規制強化や女性の健康問題への職場の意識改革を含め、多くの提言を行っている。加えて、ケアラーには年間10日の有給介護休暇、孫の子育てを担う人には無給の育児休暇、介護や子育ての緊急時などに一定期間の休暇を認めることなど、ケアに関わる具体的な提言が盛り込まれていることが印象的だ。

 UTCがこの調査の一環として去年インターネット上で2回に渡って行ったアンケート調査によると、グレート・ブリテンでは孫のいる人の5人に3人に当たる約700万人が定期的に16歳以下の孫の育児をしている。退職後の人(55%)よりも現役で働いている人(63%)が孫の育児をしている割合が高い。TUCの事務局長はこれについて、「祖父母が子育てをすることで親が働けて、保育所などの費用が節約できるし、家族間の世代を超えた絆もできます。これまでになく60代後半まで働く人が増えている中、人生2度目の子育てを担いながら、まだ働いているわけです。……孫の子育てをしながら働く人やその家族のニーズに、公共政策が追いつくことが大切です」

公共政策研究所(IPPR)が2013年8月25日に出した調査報告書「サンドイッチ世代:仕事とケアの両立を図る高齢女性たち(The sandwich generation: Older women balancing work and care)」によると、失業中の女性のうち、介護や育児などケアのために仕事を諦めた人は17%(男性では1%)。女性が59歳までに少なくとも1度は継続してケア責任を負わなければならなくなる確率は50-50だ、とも。新たに子どもを生んだ母親の半数が、現在ではインフォーマルな育児を子どもの祖父母に頼っているが、それらの祖父母の多くが50歳前後で、働いている低所得家庭である。

米国でも事情は同様のようだ。米国退職者協会(AARP)のデータによると、全米で780万人の子どもが祖父母やその他の親戚の家で暮らしている。

例えばジョージア州には、自分の家で孫を育てている人が10万人以上いる。そのうち41%で、子どもの親は同居していない。69%の人は60歳未満で、25%は貧困家庭である。同州に住むウィンバーリーさん夫婦(51歳と52歳)は、去年33歳の娘を病気で亡くし、それから13歳、9歳、8歳の3人の孫を育てている。娘の死は、4人の子どもを無事に育て上げて「これからはのんびり旅行でも」と考えていた矢先の出来事だった。IT技術の普及など、子育て環境がかつての子育て体験とはまったく違って気が張るうえに、経済的負担も大きく、子育てしていたかつてのようなパワーもない、と嘆く。

デボラ・パリスさん(51)も3人の娘を育て上げて、前からやりたかった勉強を始めようとしていた7年前、娘の一人が生後9ヶ月の娘を虐待して頭蓋骨などを骨折させる大事件が起きた。周囲からは行政に託すよう勧められたが、パリスさんは親権を求める訴訟を起こし、その孫娘と、さらに下の7歳と6歳の子2人も引き取った。

ウィンバーリーさんやパリスさんのように孫の子育てを担う祖父母家庭は、経済事情の悪化とともに増え続けているが、社会保障制度がまだこうした子育て事情の変化に追いついていないため、制度の谷間に取り残されたままになっている。親族による子育てへの補助制度があるジョージア州でも、対象者は60歳以上で、ウィンバーリーさんもパリスさんも受けられない。パリスさんは言う。「この国の制度は養子を育てる人には必要に応じてお金も物品も支給するのに、身内が子育てをしていると、ほとんど何もしてくれない」

日本でも若い世代に非正規雇用が広がって、結婚しても共働きでなければ暮らせないと聞く。祖父母家庭に同じ問題がくすぶり始めている、ということはないだろうか。
連載「世界の介護と医療の情報を読む」第97回
介護保険情報』2014年7月号