「ナースの昔語り」シリーズ 5: 通学ボランティア

海の担当ナース(男性)は
海が初めて短期で入園した5歳の頃からの知り合いで、
とても文章がうまい「文豪ナース」でもあります。

海の担当になったのを機に連絡ノートに、
昔の思い出話をいろいろと書いてくださっており、
ご本人の了解を得て、その一部をシリーズにて。


通学ボランティア

今から20年ほど前、肢体不自由児施設で働いていた頃のお話です。

筋ジストロフィーの男の子がいました。
小学校4年生くらいだったでしょうか。

下半身は既に動かなくなっていて、
車イスへの移乗やズボンの更衣などは全介助でした。

X線写真を撮るために放射線科の外来へ付き添った時のこと。

写真を撮るまでに少し待ち時間があり、
2人で話をしました。

彼の病気の話になったので、
「自分の病気のことは知っとるん?」と聞いてみました。

「うん。5歳の時に、台所の机の上に
母さんがいつも読んでいた『家庭の医学』の本があって、
病名は知っていたから、それを調べた。

でも読んでいたら母さんが飛んできて、
ものすごく叱られたから、

それからは自分の病気のことは調べないことに決めたんだ……」

思いがけず聞いてしまった重い話に、
大人の自分がどぎまぎする姿を彼に見せたくもなく、
「ああ、そうなの……。毎日がんばっていくしかないよねぇ」としか返せず、

彼が「うん」と言ってくれたことに救われました。

そんな彼もしばらくすると退園し、やがて新聞に、
通学ボランティアなるものを利用して地元の小学校に毎日通っているという記事が載ったので、

へぇ、すごいボランティアの存在するものだと感心しました。

しばらくすると、
「ボランティアの方々にお世話になり、僕は毎日楽しく生活しています」という
彼のコメントが記事になりました。

あぁ、元気にやっているなぁ、と思ったものでしたが、
それから間もなく、彼の訃報を知りました。