水晶玉

お母さん! お父さん! 今日は大変だったんですよ(笑)!!

今日は成人活動が予定されていなかったんですが、時間に余裕があったので、
個別活動をしようということになったんです。

で、今日は私は海さんにしようと思い、伝えました。

「海さん、個別に行きます?」
「はーい」
「何する? 何か作るか、散歩か、何か食べるか?」
「何か作る!」
「コラージュ? 入浴剤作る? それとも折り紙する?」
「コラージュ!!」
「どれでする? 雑誌を買いに行く? 広告でする?」
「えっと……いやぁ……」
「何でするの?」
「コラージュしたくな~い」
「じゃぁ何したいの?」
「あ・の・おもちゃで遊びたい!」
「じゃぁ個別は行かない?」
「やめるー」
「あらま。今年は最後よ。いいの?」
「いいよー」

まさかの活動拒否でした。
いつも好きなのに、やめると言いだす……。

仕方ないので、タク君(仮名)の個別活動をしにいった私。

ところがどっこい!! 
詰め所にいる私にまで聞こえてくる海さんの泣き声……。

もう、なんともいえない泣き声に、私の心ズタズタ……。

海さんのところへ戻ると、
看護科のスタッフから「海さん、活動やっぱするって泣きよるよー」

もうデイルームは私と海さんの会話の嵐です。

活動はイヤと言われたがゆえに私はタク君を呼んでしまい、
これでは海さんの活動はできません。

基本的に職員が一人なので、
安全面等を考えて利用者さんも1人ということになっているのです。

しかし、今日は特別に!! 上の許可を取り、
私、タク君、海さんの3人で活動ということに。

活動内容は申し訳ないけど、タク君がやりたかった「ちぎり絵」にしました。
(海さんがしないって言ったので準備できなかったんです……)

で、今年の写真を1枚用意し、まわりにちぎった折り紙を貼る活動でした。

タク君はしっかりできたのですが、
海さんは手も表情も止まっています。

「そうよね……。海さんは違うことしたいんじゃもんね……」

でも、一度ことわられてますからね!!

といっても「楽しくない」で終われないので
大きな缶にたくさんの折り紙を入れて、
存分にわしゃわしゃしてもらいました。

何かをわしゃわしゃするの、好きですよね。

もう缶を渡した瞬間から、必死でわしゃわしゃ。

今日は何の作品もなしですが、楽しまれたようです。

今日は、泣き声に悩まされ、笑ってほしいと悩み……。
なんとなく、一大事でした!!


支援職の担当の方からも、看護科の担当の方からも、連絡ノートに、
こういう記入を毎回、2本立て、3本立てでいただくのですが、
お2人とも文豪支援職に文豪ナースで、

いつも情景が目にありありと浮かぶし、
海と一緒に読みながら、親はもうおなかを抱えて大笑いなのです。
(看護科の担当は、言わずと知れた「ナースの昔語り」シリーズの著者)

読みあげながら時に「へぇ、アンタ、こんなことしたん?」などと水を向けると
ちょっと照れくさそうだったり、「やば」という顔つきになったり、
海の微妙な百面相からも、その時の様子がまた伺えて、とっても楽しい。

しかも、どれを読ませてもらっても、直接お話を伺っても、
いつもウチの娘が、まるで、べらべら普通にしゃべれる人としか思えない……。


で、今日、この「個別」編を読ませてもらっていたら、

担当の方と海のやりとりや、こまやかな心遣いはもちろん、
ものすごく忙しくなって余裕がないとばかり聞く療育園の日常に、
まだ昔みたいに、こんなふうに臨機応変日課の変更もアリなんだ、と心弾み、
「じゃあ仕方がないから今日だけは1対1じゃなくても」という柔らかな判断も嬉しく、

こんなふうに一人ひとりが大切にされている療育園の
生活空間がとてもリアルに感じられてきて、

ふっと「水晶玉」を見せてもらっているような気がしてきた。


昨年12月に滋賀県びわこ学園の実践研究報告会で
全体講演をさせていただいた時に、私は最後の辺りで、

親の願いをそのまま言葉にすれば、「水晶玉がほしい。
自分が死んだ後も我が子がみんなに大切にされて、
幸せに生きていく姿を見せてくれる水晶玉がほしい」と
お話しました。

そして、「でも、そんなものはないから」と
その先へと話を続けたのですが、

これを読ませてもらいながら、「いや、水晶玉は、あるのかもしれない。
私は現に今、水晶玉を見せてもらっているような気がする」と思い、
なんだか胸に温かいものが満ちてくる感じがしました。

親はまだ死んではいないけれど、
親のまったくあずかり知らないところで、
「は」以外の言葉を持たない我が子が、
まるでベラベラ言葉がしゃべれる人みたいに、
言いたいことを言い、スタッフをからかったり、イジったり、
甘えてみたり、すねてみたり、しながら、

そうか、担当の方はもちろん、それ以外の皆さんにも
こんなにも受け止めてもらい、大切にしてもらい、
幸せに暮らしている……。


水晶玉は、あるのかもしれない――。

そんな気がし始めた、金曜日の夜。




注:今夜は父親が海の「担当」のため、
母は心置きなくPCを叩いております。