利光恵子著/松原洋子監修 『戦後日本における女性障害者への強制的な不妊手術』メモ (前)

利光恵子著/松原洋子監修 『戦後日本における女性障害者への強制的な不妊手術』
立命館大学生存学研究センター 2016年3月)

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構成は、
戦後日本における優生施策の概要と分析と
3人の被害女性と、そのうちの一人の身近にいて自らも子宮摘出を勧められた体験のある女性
計4人への聞き取りを中心とした語り。


まず概要から。

「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止すると共に、
母性の生命健康を保護すること」を目的とした
優生保護法」の公布は1948年9月。

その後、2回の改訂を経て1996年に「母体保護法」となった。

優生手術は、第2条第1項で
「生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術」と定義されている。

本人の同意に基づく場合(第3条)と
本人の同意を必要としない場合(第4条、第12条)があり、

第4条では
「審査を要件とする優生手術」として
「遺伝的精神病、遺伝的精神薄弱、顕著な遺伝的病質(顕著な性欲異常、顕著な犯罪傾向)、
顕著な遺伝性身体疾病、強度な遺伝的奇形」の場合に、
都道府県優生保護審査会の審査を経て、
本人の同意を得ずに不妊化措置を行うことができる、としていた。

第12条では、
「遺伝性のもの以外の精神病または精神薄弱に罹っている者」に対して、
保護義務者の同意があった場合には上記審査会の審査を経て、
医師は不妊化措置を行うことができる、と定めていた。

また2回の改定では、
中絶の審査制度を廃止し、要件を「経済的理由」に拡げるなど、
優生保護法下の断種政策の強化は、戦後の中絶規制の緩和ゆえに必然的に要請された」
(松原 2003:113)

著者は「強制不妊手術」を以下の3つの類型に分類。

(1) 本人の同意を要しない不妊手術
(2) 形だけは「本人の同意に基づく」とされたものの実質的には強制的に行われた不妊手術
(3) 優生保護法の範囲さえ逸脱した、本人の自由意志に基づかない不妊手術


この本が取り上げているのは(1)と(3)の類型。

(1)の「本人の同意を要しない不妊手術」は
優生保護法の第4条と第12条に基づくもので、
1949年から1996年の約50年間におよそ1万6500件が行われ、
約7割が女性だった。

厚生省からの県知事への通達で強制的な手段が認められ、
「真にやむをえない限度において身体の拘束、麻酔薬施用または欺もう(網のつくりのみ)
等の手段を用いることも許される場合があると解して差し支えない」

また、「基本的人権の制限を伴う」ことを認めつつ、
「不良な子孫の出生を防止する」公益上、医師が必要と認めことを前提とするのだから、
憲法の精神に背くものではない」とされた。

さらに手術のリスクが低いことをもって、
本人の意思に反して実施することも
「何等憲法の保障と反するものではない」と「強制」も正当化された。

類型(3)については、
優生保護法で認められていた不妊手術は
パイプカット(男性の場合)や卵管結紮等(女性の場合)のみで、
子宮や卵巣の摘出や、放射線照射によって生殖機能の廃絶は認めていない。

にもかかわらず、法の範囲を超えて
「障害者に生殖機能は不要」「障害者に子産み・子育ては不可能」との認識で、
あるいは月経の介助負担軽減を目的に、子宮摘出や生殖器への放射線照射が行われた、と
著者は指摘。


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