「ケアラー支援法~重症障害者の親として望むこと」を書きました

高次脳機能障害の方と家族のために様々な支援活動を展開しておられる
特定非営利活動法人VIVID(ヴィヴィ)のニュースレター
『ヴィヴィレター 第18号』(2017年3月20日発行)に、

「ケアラー支援法~重症障害者の親として望むこと」と題して、
以下の文章を寄稿させていただきました。


ケアラー支援法~重症障害者の親として望むこと  
 
                     一般社団法人日本ケアラー連盟理事 児玉真美

我が家の一人娘、海(うみ)は今年の秋に30歳になります。出産時の低酸素脳症のため重症心身障害があります。乳児期の育児は、まるで心身の限界を日々「これでもか」と試され続けているような過酷さで、私は娘が2歳の時に大学教員の仕事を辞めざるをえませんでした。市役所の福祉課に相談しても「障害児はみんな母親が世話していますよ」と冷たく返される時代でした。娘は6歳から重症児者施設で暮らし週末に帰省する生活となりましたが、私は施設に入れてしまった罪悪感とともに「なぜ母親だというだけで私は自分自身の人生を生きることを許されなかったの?」というつぶやきを、ずっと抱えてきました。

その間の体験や母親としての思いを綴った2冊の手記を機にライターの仕事をいただくようになり、やがて仕事を通じて英語圏の介護者支援の情報と出会ったのは、宿命だったのかもしれません。欧米を中心に全国レベルの介護者支援団体が多数あり、ケアラーへの情報と支援メッセージを発信しながら、実態調査などを通して行政に支援を働きかけています。また毎年「ケアラーズ・ウィーク(介護者週間)」を開催して、パワフルな啓発活動を展開します。活動内容は様々ですが、日本ケアラー連盟も加盟する国際ケアラー連盟には現在、英、米、豪、仏、カナダ、フィンランド、インドなど13カ国の介護者支援団体が加盟しています。

海外の介護者支援について初めて知った2008年、私は夢中でウェブ情報を追いかけました。なかなか口にできない私自身の思いが、そこではそのまま鮮烈な言葉になっていたからです。例えば08年6月に英国の介護者支援チャリティが打ったキャンペーンの名前は“Back Me Up”。(介護を受けている人だけではなく)介護している私のこともちゃんと支えて――。同年秋にオーストラリアの介護者週間で出会ったメッセージの温かさには、涙がこぼれました。Remember, you’re only human。忘れないで、あなただって生身の人間なのだから――。

「介護しているあなたも大切なひとり。自分の健康を維持し、自分の生活や人生を大切にする権利、そのための支援を求める権利があるのですよ」と、海外の介護者支援のメッセージは、いつもとても明確です。日本の介護者にも届けたいメッセージだなぁ、と考えていた矢先の2010年、日本ケアラー連盟が設立され、私も仲間に加えてもらいました。高齢者を介護する家族だけではなく、障害児者の家族介護者や依存症や引きこもりの人の見守りなど、多様な介護者が広く含められるよう、敢えて「ケアラー」という言葉を使っています。そして、日本ケアラー連盟が現在とりくんでいる一つが、日本にもケアラー支援法を作ろうという活動です。

ケアラー支援の先進国、英国では1995年に介護者法ができ、何度か改定されながら支援制度が整備されてきました。例えば日本で「アセスメント」というと要介護者しかイメージされませんが、英国ではケアラーからの請求によって、就労や生涯教育や余暇活動などケアラー自身のニーズをアセスメントすることが地方自治体に義務付けられています。そして、介護者が健康で快適な生活を送れるよう支援すること、そのための情報提供を行うことなども地方自治体の責務。ケアラーが一人の人として尊重され、支援を受ける権利が法的に保障されているわけです。それが支援団体の活動の法的根拠となり、地域ではケアラー・センターがケアラーの健康支援、緊急時対応、ヤングケアラー支援など様々な支援活動を担っています。

日本でも介護者支援の必要が言われるようになりましたが、まだまだ「ケアラーが介護し続けるための支援」に留まっています。私たちが欲しいのは、ケアラーも大切なひとりとして尊重されて「介護をしながらケアラーも自分自身の人生を大切に生きることができるための支援」ではないでしょうか。

私たちの活動や私たちが提案している法案は日本ケアラー連盟または、日本に介護者支援法を実現する市民の会のサイトで見ることができます。市民の会には130人を越える賛同者が名前を連ねています。いずれも会費と寄付金で運営されている団体です。一人でも多くの方にご賛同ご協力いただければと思っています。