in memory of ashley

2011年に上梓した『アシュリー事件 メディカル・コントロールと新・優生思想の時代』
おかげさまで昨年、重版となりました。

生活書院さんに企画をご相談した時に
「売れないかもしれないけど、これは関わらせていただくべきお仕事」と
即答で引き受けてくださったことには、

こんなこともあるのか、こんな版元さんもあるのか、と仰天したし、
ただただ感謝なのですが、

このたびも、
製作費を回収することすら難しく重版そのものが難しい業界事情の中、
「この本は品切れにしておくわけにもいかないから」と決断してくださって、
もう感謝の言葉もありません。

もともとアシュリー事件との出会いそのものが
物を考える意味でも、自分なりの「仕事」を見つけるという意味でも
私にとっては人生の大きなターニング・ポイントでもあったので、
この本の重版には感慨が深くて、

印税をいただいたら、
なにか記念になるものを買いたいなぁ、と考えていました。

で、この3連休。
前半は海の帰省に使い、
後半は夫婦が年に1度か2度、骨休めに行くお気に入りのお宿へ。

すると、そこの小さな売店に、今回初めて見る
きれいな藍染めレザーのグッズが並んでいて、
スマホのケースがとても気に入りました。

実は長い間、高齢者向けのガラケーを使っていたのを、
ついにディスプレイがやられてしまったのを機に、
昨年末にスマホに変えたばかり。

スマホ・ケースとしては、ちょっとお値段が高めでしたが、
なんとも言えない深い味わいのある水色が気に入って、
同じ染めの名刺入れと一緒に「記念の品」にしよう、と思いました。

旅館の売店にはケースの方がサンプルしかなかったので、
レザー・クラフトのお店の場所を教えてもらって行ってみました。

細かい希望を聞いてから手作りするので、
2カ月半くらいかかるとのこと。

ちょっと迷っていたら「作ってもらったら?
せっかくいいものに出会えたんだから」と
夫が背中を押してくれました。

丁寧に、色合いや、デザイン、糸の色、裏地の色の希望を聞き取ってもらい、
最後に、名入れができます、ということだったので、

名刺入れの方にはアルファベットで自分の名前を、
それからスマホ・ケースには、その場で思いついて、
in memory of ashley と入れてもらうことにしました。
(大文字だけか小文字だけになるということだったので、小文字を選択)

2007年のお正月明けに初めてアシュリーの写真を見た時、
「あ、わたし、この子、知っとる……うちらの子じゃ」と思わずつぶやきました。

ウチの海や、
海を通して通園施設や養護学校や療育園で出会い、知り合ってきた
身体的にも知的にも重い障害のある人たち――。

そして、言葉なしに通じ合える親仲間――。

どの子もどの人も、私には、
そんな私たち親みんなの「うちらの子」という親しい感じがするのです。

アシュリーは初めて写真を見た時から、
紛れもない「うちらの子」でした。

そのアシュリーとの出会いから、
私は「うちらの子」のいのちや尊厳について
重い障害のある子どもを持つ親であるということについて
たくさんのことを考えさせられてきました。

どれもこれもアシュリー事件と出会わなかったら、
考えることも気づくこともありえなかったことばかりです。

お店の女性が、注文の詳細を書き込む用紙に
in memory of ashley と一文字ずつていねいに書き入れてくださるのを見ていたら、
アシュリー事件と出会ってからずいぶん時間が経ったなぁ、
いろんなことがあったなぁ、と思い出されてきて、
じんと涙ぐんでしまいました。

注文内容を確認しながら
色鉛筆でかわいらしい絵を描いてもらい、
じゃぁ、お願いします、といってお店を出たら、
心が洗われたようになっていました。

この数年ずっと難しい状況の中で私なりに闘い続けていることがあります。

訴えても闘っても届かず、向き合ってもらえないまま、
卑劣なやり方でウソを広められ人格を貶められても、
名誉回復を求めることすらできない事態に憤怒の思いが積み重るばかりで、

特にここ数日は、ギリギリの決断を迫られている状況の中、
荒れ狂う怒りをなだめつつ冷静な判断を模索することに苦しんで、
いつもそのことが頭から離れず、煩悶していました。

昨夜も、いつまでも眠れなくて
宿のお部屋で夫に迷惑をかけたところでした。

名入れができます、と言われ、その場で
in memory of ashley と入れてもらおうと思いついた瞬間に、
ただ気になるから、ただ追いかけずにいられないからというだけで
誰にも読んでもらえないブログを書き続けた、
あの日々がよみがえってきたようです。

そして、あの遠い日々の記憶が
ここ数日ぬぐうことができなかった執拗な怒りや誰かを呪う気持ちを
洗い流してくれたような気がしました。

今でも苦しいし、底知れないほどの不安もぬぐえないし、
どこに向かって行動することが正解なのかはまだ分からないけれど、
でも、もう一度、自分をちゃんと信じてみよう、と。

3月末に、きれいな水色のスマホ・ケースと名刺入れが届きます。
めっちゃ楽しみです。