今日のボケ: 免許証

昨年12月に母が亡くなって、
その後の事務処理でなんだかんだバタバタしている。

不慣れな案件がいくつも同時進行して
頭の中はわちゃわちゃ状態。

というのは、言い訳なのかもしれないんだけど、

夕方、役場に住民票を取りに行ったら
「本人確認のため運転免許証か健康保険証を」と言われ、
「あ、じゃぁ免許証が駐車場の車にありますから、すぐ取ってきます」

飛び出していって駐車場の車のダッシュボードを開けるも、
そこにあるはずの免許証が、ない。

なんで?

あ、そだ。先週のあの日だ。

司法書士さんに連れられて銀行に手続きに行った際に、
同じように窓口で「本人確認のために免許証を」と言われ、
「あ、じゃぁ駐車場の車にありますから」と
あそこでも飛び出したんだった。

でも、あの日、用事を終えて車に戻った時に、
忘れないうちに、と免許証はダッシュボードに戻したはず……。

その時の、
ドアを開けて乗り込む前に、シート越しにダッシュボードに手を伸ばした時の映像が
フラッシュバックする。

だから、ここにあるはず。

もう一度、
いろんなものがごちゃごちゃに詰め込まれたダッシュボードをひっかきまわす。

やっぱり、ないっ。

なんでっ?

そだ……。

そういえば、あの時は、
シート越しにダッシュボードに手を伸ばそうとした瞬間に、
背後に司法書士の先生を立たせたままだということに気づき、
そうだ、まずはさっさと壁際から車を移動させて乗ってもらおう、と
免許証はとりあえずバッグに入れた……んだった……?

じゃぁ免許証はまだ、あの日使ったバッグの中?

えい。

すぐ近くなので、
そのまま車を出して家に戻る。

2階に駆け上がり、問題のバッグの中を急いで探る。

ないっ。

こっちのポケットにも、ないっ。
そっちのポケットか? ここにも、ないっ。

なんでっ?

落ち着け、わたし。

まずは役場のお姉さんを待たせたままなので、
とりあえず保険証をもって役場に戻ろう。

ごめん。お巡りさん、免許証不携帯なのはわかってます、わかってますけど、
ほんの数分だから、今日のところは見逃してください。お願いします。なんまんだぶ。

……お願いしつつ慎重に運転する。

もし免許証をなくしたら、再交付の手続きって面倒くさそうだなぁ……。
また、めっちゃ叱られるんだろうなぁ。

実は去年の秋に免許証の更新だった。
「新しい免許証は10月のこの日から11月のこの日までに取りに来てください」
「はい、はい」と帰ってきて、そのことを思い出したのは年が明けて2月だった。

なにしろ「10月のこの日から11月のこの日」あたりには
母の病院から何度も呼び出された挙句に転院となり、
そこで血圧が急に下がってヤバい状態になったり、また持ち直したり、
そのうちには海まで療育園で寝込んで酸素マスクをつけるドタバタ続きで、

やがて2人とも元気になったので、やれやれと
12月の頭に仕事で滋賀県に出かけたところ
仕事を終えた夜中に旅先のホテルで母危篤の電話を受け、
その翌日の昼にはあっけなく死んでしまって、
私は出張のコロコロを転がして病院に向かい、
そのまま通夜&葬式に突入。

四十九日までの記憶は、ほぼ、ない。

2月に気づいたのだって、
たぶん何かの手続きで本人確認が必要になってコピーをとるために
ダッシュボードから免許証を取り出してみたからだった……と思う。

お巡りさんに叱られた声にはマジな怒気が含まれていたけど、
何か月か不携帯だったのは隠しようもない事実だから、
相応の処分を言い渡されても不服は言えない立場であってみれば、
秋にもらうべきだったのをちゃんとその場で渡してもらえたことが、
ほんと泣きそうなほど嬉しかった。

なのに、なくしたのか? 
その免許証を今度は? 

うそだろ? どーする?

それより何より、だいじょうぶか、わたし?

なにしろ最近、なんでもかんでも消える。
そして、時間が経ってから、とんでもない場所から出てくる。

そう。だいたい、いずれ、とんでもないところから出てくる。
だから、落ち着け、わたし。

窓口のお姉さんに保険証を渡し、
住民票が出てくるのを待つ間、先週のあの日の記憶をもう一度たどる。

そういえば……。

うっすりと、戻ってきたのは、
家に帰ってから、バッグに入れっぱなしにすると忘れてしまうからと思い、
取り出した免許証を玄関の下駄箱の上に置いた? ような? 記憶。うっすりと。

そのまま車まで持っていってダッシュボードに入れてしまえばよかったのに、
次に車に乗る時に、ここにあれば忘れずに持って出るだろうと……。

じゃぁ、まだ下駄箱の上にある?
さっきはドタバタして目に入らなかっただけで?

そうだ、きっとそうだ。

強引に自分に言い聞かせながら、
住民票をもらうや、役場の帰りに予定していた買い物は棚上げして
まずは家に戻る。

でも、もちろん下駄箱の上に免許証の姿はない。
実際、もう長いこと、下駄箱の上には何もなかったよ。

じゃぁ、一体どこよ?

下駄箱の上にないということは、
出かける時に持って出て車のダッシュボードに入れたはずなんだけど。

もう一度ダッシュボードをさぐる。ない。
もう一度2階に上がって、例のバッグの中をさぐる。ない。

じゃぁ、一体どこへもっていったの、このボケ!の私は? 

もしかして、2度と救い出せないような「とんでもないところ」に
入れ込んでいたりしたら、どーしよー。

それって、「なくした」ってことだよ。

だいたい、出てくるまでずっと不携帯で走るつもりか?
そういう時に限って、止められたりすんだよ、ゼッタイ。

もう情けなさに歯ぎしりしそうなパニック状態で
くるくると家じゅうを探し回るうち、
新たにうっすりと戻ってくる記憶があった。

下駄箱の上にあった免許証を見落とさないように
出かける前に玄関に出したバッグの……上に、置いた? 時の映像?

その映像のバッグは……モスグリーン。リュックだ!

スグリーンのリュックといえば、海の迎えに出る時?
海の送迎用にしている、小さい方のモスグリーンのリュック?

あちこちのポケットを漏れなく探ってみるも、ない。

もしや、エスキー・テニス用の、
大きい方のモスグリーンのリュック……?
(昔からモスグリーンが好きなんです、わたし)

まさか、そんなことがあるかよ……と思いながら、
大きい方のリュックを隅々まで探ってみると、

……体育館シューズの袋の下に、ひっそりと、私の免許証。

え? なんで、こんなところに?

先週エスキー・テニス教室に行く前に、
下駄箱の上からとって、忘れないようにリュックの上に置いた……んだろうと思う。

そういえば、これまた、うっすりと、
リュックを肩にかけ、手に免許証を持って、玄関を出たような記憶が……

そうだった!!

車に乗り込み、手にした免許証をダッシュボードに入れようとした瞬間に、
助手席の外に、いつも一緒に行く近所の友人が立ったんだ。

そこで「あ、どうぞどうぞ、乗って」と言い、

「こんにちはー」
「今日も暑いねー」とか言いながら、

彼女が助手席に乗って気が付いたら、
ウチのワゴン車の助手席は、
すぐ後ろに海の座位保持装置を装着したシートがあるため
通常よりも狭くて、人が乗るとダッシュボードが全く開けられなくなるんだった。

それで、手にした免許証のやり場に困って、深く考えることなく、
とりあえずバッグにつっこんでしまった……んだった。んだった。そーだった。

そして、エスキー・テニス教室2時間の間に、
なにもかも、すっかり忘れ果てた。果てた。完全に。

もぉ~っ。あほんだらぁぁぁぁぁ。