静岡大学、松田純教授の「著作権侵害(と私には感じられるもの)」について

以下は、2017年4月19日の「やってもいい人」1「やってもいい人」2のエントリーに続いて、
2017年4月21日にアップすることにしていた2つのエントリー。

前日の夜になって突然、ある事情から棚上げせざるを得なくなったものです。


=======


2017年3月の最後の週だったと思う。

ある方から
「この講演をネットで聞いていたら、児玉さんの本が引用されてたよ。
国立大学の教授の講演で引用されるなんて、すごいね~」と教えていただいた。

私がそのビデオを見たのは4月1日。

見始めてまもなく、全身が凍りついた。

そこで「講演」されていたのは、
ほとんと丸ごと私が書いたものだったから――。

そして、その人が、
オランダの機動安楽死チームについて、私が書いた通りに語った後で、
笑いながら言うのを聞いて、全身が震え始めた。

「わたくし、安楽死宅配便制度と名づけてみましたが、どうでしょうか」

2012年3月2日に前のブログで
機動安楽死チームのスタートのニュースを紹介した際、
私は、タイトルを「“宅配安楽死”スタート」とした(その後変更)。

その後も、シノドスと『現代思想』で起動安楽死チームについて書いた際にも、
“宅配安楽死制度”だと書いている――。

身体の震えが止まらなくなった。

これまでにも
「ここで引用されていたよ」と人から教えられた学者の論文や著書を読んで、
苦々しい思いで絶句した経験は何度もあった。

でも、ここまで大量かつ「まんま」なのは初めてだった。

         ===


2013年10月21日に、
静岡大学松田純先生が、からつ塾にて
尊厳死法と事前指示は平穏死を保障するか?」というタイトルで講演された際のビデオが、
他のからつ塾での講義と同様、YouTubeにて公開されています。

https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=nrz80eNeV18
(2018年3月5日追記:からつ塾により2018年2月28日に削除された模様です)

1時間40分のご講演です。

このうち、
最初の約30分間にあたる
「Ⅰ 死に方についての法制化 世界の状況」の内容の大半と、

開始から約1時間辺りの英国のリバプール・ケア・パスウェイに関するスライド、
ご講演の最後あたりのM.ウォーノックの発言に関するスライドが、

拙著『死の自己決定権のゆくえ―尊厳死・「無益な治療」論・臓器移植』(大月書店)からの
ほぼ丸ごとのコピペ、あるは多少手を入れたものの継ぎ接ぎとなっております。

詳細は、こちらの資料にて対照してみました ↓
「からつ塾松田純先生講演における著作権侵害疑義に関する資料」
https://drive.google.com/file/d/0B90RQNXD3i8hNmNmY3JYd3Vta2c/view?usp=sharing

左欄に、松田先生が使用されたスライドの内容(緑)と、ご講演の文字起し(黒)。
右欄に、拙著『死の自己決定権のゆくえ』の当該箇所の抜粋(黒)。

松田先生のご講演内容が拙著と合致している箇所を赤字にしており、
左右照合しやすいように、一致箇所ごとにアルファベットでナンバリングをしました。

コメント欄に、左右を比較してのコメントを追記しています。

そのコメント欄から、いくつかの例を挙げてみると、

「オランダ・安楽死の実情2」と題されたスライド

このスライドは、ほぼ丸ごと、拙著P.43の小見出しから10行のコピペといってよい。
……しかし、スライドには出典情報は存在せず、口頭での言及もない


「オランダ・安楽死の実情3」と題されたスライド

いくつかの変更が行われている他は、児玉の著書p.44の12行分の
ほぼそのままのコピペといってよい……

スライドの最後に
朝日新聞の記事が出典としてあげられているが、
この出典情報はいわば児玉の著書からの「孫引き」。

「孫」の朝日新聞についてはスライドに出典を記述し、口頭でも言及しながら、
12行分まるごとパクってきた児玉の著書についてはいっさい触れられていない。


「オランダ・緩和ケアの実情」と題されたスライド

「PAS」が翻訳されていることを除くと、
児玉の45-46ページの10行分の一字一句たがわない丸ごとのコピペになっている。

しかし、この表記では、
あたかも最後のrの箇所だけが児玉からの「引用」であるかのように読める。
rの箇所にすら引用範囲の明示はなく、適正な「引用」とはもちろん言えない。

このスライドの最後の箇所で
「そういうことを児玉さんという人が書いています」と言われているのが、
1時間40分の講演の中で唯一、児玉について口頭で言及があった箇所。


「ベルギー:安楽死の実情」と題されたスライド

一部、 表現レベルの変更が行われているものの、
全体としては児玉の著書の小見出しを含め8行分のコピペと言ってもよい。

uの箇所は一字一句そのまま。

しかし出典については、スライドにも記述はなく、口頭での言及もない。


「近年ディグニタスに行って自殺する英国人が急増」と題されたスライド

最初にニューズウィークの情報が置かれている他は、
児玉の著書から「そのまま」あるいは多少の文言を弄った上で、
児玉の著書の論旨展開の通りに分節して並べただけのスライド。

3段落19行分の丸ごとのコピペと言ってもよい。

ここでも、いわば「児玉からの孫引き」の「BBCの報道」はわざわざ注記しながら、
児玉については、あたかも最後の項目だけが児玉からの引用であるかのように書かれ、
相変わらず口頭での児玉への言及はない。


「欧米の実情から」と題されたスライド

エマニュエルの発言箇所は拙著からの丸ごとの大きな「引用」であり、
児玉の翻訳がそのまま使用されているにもかかわらず、
出典情報の記述も口頭での言及もまったくない。



この問題について、何らかの意見を形成しようとなさる方、
あるいは発言される方は、必ず、上記の対照表と当該ビデオで、
事実関係を詳細に確認してくださいますよう、お願いいたします。


私は、この件について、
2017年4月10日にからつ塾のメールアドレスに
上記の対照表を添付にて抗議のメールを送りました。

要求したのは、以下の3点です。

① 当該サイトに、添付の資料(児玉注:対照表のこと)をなんらかの形で全面的に公開した上で、著作権違反の事実を認め、謝罪する文書を掲載してください。

② 松田先生の当該のご講義の動画は、そのまま手を加えることなく残してください。

③ 松田先生のご講義の動画の最後に、①の情報を盛り込んでください。

なお、児玉は①と③が実行された後に、今回の経緯について、当該情報①へのリンクを貼った上で自分のブログに報告記事を書く予定としております。
(2018年3月5日追記:「著作権違反」と書いているのは表現として不正確ですが、
著作権法違反」あるいは「著作権侵害」の意です。以下同様)


2017年4月17日から19日にかけて、
からつ塾代表の大嶋仁さまと実質3回のやりとりをしました。

最初のメールには、
松田純先生から私宛のメッセージも添付されてきました。

それらのやりとりの詳細については、次のエントリーで取りまとめます。

最後のやりとりは、
4月19日朝、大嶋さまよりいただいた3回目のご回答ですが、
私はそれに対しては返信しておりません。

これ以上、やりとりしても意味はないと考えます。

松田先生と協議の上で大嶋さまが対応しておられるとの前提で、
以後、お2人とのやりとりとして書きますが、

お2人のご認識は、やりとりするたびに変わっていきました。
主要な問題をめぐるご認識の変遷は、以下です。

「引用」と「出典表示」のやり方が「不注意」だったに過ぎない
         ↓
児玉の著書を世間に広めてやろうと善意で「紹介」したに過ぎない
         ↓
大学の講義などで、他人の著作や文献の抜粋・コピーを
資料として配布するのと同じことに過ぎない。
「文献内容の『紹介』による論の補強であった」


一方で、2回目以降のご返信では以下のように書かれてもおり、
著作権違反があった事実」を認めておられると、私には思えます。

今回の松田先生の講義中、問題の箇所につきましては、 児玉様の著書から多くの部分をほぼそのまま借用した形となっており、確かに「引用」とは言えないとの認識でおります
(17日夕)

あの講義スライドでは、 聴衆の方たちはそれが松田先生本人の文章であるかのように受け取ってしまっても仕方ありません
(17日夕)

無論、児玉様からすれば、
松田先生が児玉様の著作を用いたそのやり方が「著作権違反」だということ
(19日朝)
(ゴチックは児玉)


けれど、19日のご返信では、やはり、

「悪意」でも「故意」にやったことでもなく、
抜粋をプリントにして配るに等しい行為の、やり方が「不注意」だっただけなので、
これが法的な「明らかな著作権違反」かどうかは不明であり、
著作権違反の事実を認め」るように、という要求には応じられない、とのご回答。

最後は

理由はともあれ、児玉さんを傷つけたということだけで、ほんとうに申し訳なく思っております。
(ゴチックは児玉)


松田先生の当該のご講演での拙著の扱いは、
私には、どうしても「引用」だとも「紹介」だとも、
「大学の講義で誰かの著書の一部をプリントにして配布するのと同じ」とも思えません。

1時間40分のご講演のうち、
最初の30分ぶんの内容に加えて、その後もさらにスライド2枚の内容が大幅に拙著に依拠しており、

それらのスライドでは、多くがその文言すら
大嶋さまの言葉を借りれば「そのまま借用」したものであり、
私が言う「コピペ」である、という事実。

ビデオで拝見する限り、松田先生のご講演の口調は、
冒頭で「最近新しいことがわかってきた」と言われたのに続いて
「私も進化しておりますので」と言われているご発言を含め、
私には、ご自身の研究成果として語っておられるように聞こえます。

お2人のご認識の変遷も、
当初は、所詮は素人だから簡単に言いくるめられると侮っておられたからこそ、
メールのやりとりにつれ一貫性なく変わっていかざるを得なくなっておられるように、
私には見えます。

私には誠意あるご対応とは感じられませんが、
これについては様々な受け止め方があるのかもしれません。

くり返しますが、
この件について、なんらかの意見を持たれたり、発言をされる場合には、
まずは、必ず、当該ビデオと私が作成した対照表の両方で
事実関係を詳細にご確認くださいますよう、お願いいたします。


対照表はこちら   ↓
https://drive.google.com/file/d/0B90RQNXD3i8hNmNmY3JYd3Vta2c/view?usp=sharing
(文字が小さいと思いますので、拡大して読んでください。
赤字部分がスライドあるいは口頭説明で拙著と一致している部分です)


法律上の「著作権(法)違反」に当たるのかどうかは、
私にも分かりませんが、

法律上の「違反」に当たらないから、
やってもいいということにも、詭弁で開き直っていいことにも、ならないように感じています。

もはや、この問題を何らかの解決に至らせることはできないと考えますし、
それを試みることに意味があるとも思いませんが、

納得もしておりませんので、

私から見た事実と、それに対して自分なりに行動したことだけは、
ここに記録として残しておくこととし、

この不愉快な事件に、
自分なりのピリオドを打ちたいと思います。



2017年4月10日から19日までの
お2人とのやり取りについては次のエントリーに。