静岡大学 松田純教授の「謝罪文」について

2月28日、静岡大学大学院人文社会科学研究科の松田純教授のHPに、
「2013年10月に行った講演についての謝罪」と題した文書が公開されました ↓
http://153.128.37.192/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=30

この謝罪文に至る、ほぼ1年間の経緯については、こちらに ↓
(エントリーの公開日時は事情により前後しておりますが、内容は時系列です)



松田先生は3月末をもって同大学を定年でご退官になりますので、
それと同時に上記の謝罪文もHPとともに削除されるものと考え、
以下にコピペさせていただきます。


2013年10月に行った講演についての謝罪
2018年3月1日

私が2013年10月21日に「 からつ塾」にて講演させて頂いた「尊厳死法と事前指示は平穏死を保障するか」について、児玉真美先生より、ご著書に対する著作権侵害との抗議を受けました。

この講演のなかで、オランダやベルギー等の実情、およびメアリー・ウォーノック認知症の方についての発言などの紹介のなかで、児玉真美先生のご著書『死の自己決定権のゆくえ』(大月書店、2013年) から多くの情報を使わせて頂きました。もとより盗用する意図はなく、スライドにも著者名、書名を明記させて頂きましたが、その出典表示が十分ではありませんでした。

例えば、スライド4枚にわたって、オランダ、ベルギーの実情を児玉真美先生のご著書をもとに話をさせて頂いたところでは、引用が始まる一つ前のスライドに著書名をあげていますが、それがどこから、どこまでの指示か不明です。口頭でも、「これからお話する......の実情については、児玉真美先生のご著書『死の自己決定権のゆくえ』から引用しながら紹介させて頂きます」と前置きすれば、よかったと反省しています。

パワー・ポイントでは、行頭記号「・」のあとに箇条書きで項目が並べられますが、1枚のスライドに数項目をあげ、そのすべてを児玉真美先生のご著書からの引用であることを表示すべきところ、最後の項目のうしろにのみ、例えば「(児玉45-46頁)」という 出典表示になっていて、最後の項目のみが引用であるかの印象を与えてしまいました。数項目がすべて引用の場合は、スライドに別枠でそれを表示するなどの方法をとるべきでした。
今後は、その点に注意して出典を表示するようにしてまいります。

「欧米の実情」をまとめたスライドと、リヴァプール・ケア・パスウェイ(LCP)に言及したところでは、出典表示がまったく欠落していました。この点の不注意については深く反省し、児玉真美先生に心からお詫び申し上げます。

学会発表や論文執筆等では、出典表示には注意を払っているつもりですが、市民向けの講演では、文献や情報源よりも、話の内容そのものに関心がもたれると考え、出典表示が雑になったり、一部欠落したものとなりました。今後は一般の講演におきましても、教えて頂いた情報や文献に敬意を払い、正確に示すように心がけてまいります。

児玉真美先生には、ご自身が苦労して情報を収集し、翻訳され、その背景も分析した上で、鋭く的確な分析をされてこられたのに、その学術的な労苦と意義に敬意を示すことなく、あたかも講師みずからが調べたかのような印象の話となったことに対して、大変不快な思いされたことと思い、大変申し訳なく思っております。心から深くお詫び申し上げます。

松田純


この謝罪文掲載を通知してこられた からつ塾からのメールには以下のように書かれ、
謝罪文掲載と同時に、当該講演の動画はからつ塾のサイトから削除された模様です。

なお、YouTubeへの講演VTRの掲載は、もともと松田純氏の同意がなかったものであるため、そのVTRを削除することと致しました。今回の件につきまして、児玉先生には不快な思いをさせましたことを、からつ塾としましても、改めてお詫び申し上げます。



まず、謝罪文での松田先生の事実関係の説明は、極めて不誠実です。

同じ事実関係は、
私が作った対照表のコメント欄では以下のようになっています。


「オランダ・安楽死の実情2」と題されたスライド

このスライドは、ほぼ丸ごと、拙著P.43の小見出しから10行のコピペといってよい。
……しかし、スライドには出典情報は存在せず、口頭での言及もない


「オランダ・安楽死の実情3」と題されたスライド

いくつかの変更が行われている他は、児玉の著書p.44の12行分の
ほぼそのままのコピペといってよい……

スライドの最後に
朝日新聞の記事が出典としてあげられているが、
この出典情報はいわば児玉の著書からの「孫引き」。

「孫」の朝日新聞についてはスライドに出典を記述し、口頭でも言及しながら、
12行分まるごとパクってきた児玉の著書についてはいっさい触れられていない。


「オランダ・緩和ケアの実情」と題されたスライド

「PAS」が翻訳されていることを除くと、
児玉の45-46ページの10行分の一字一句たがわない丸ごとのコピペになっている。

しかし、この表記では、
あたかも最後のrの箇所だけが児玉からの「引用」であるかのように読める。
rの箇所にすら引用範囲の明示はなく、適正な「引用」とはもちろん言えない。

このスライドの最後の箇所で
「そういうことを児玉さんという人が書いています」と言われているのが、
1時間40分の講演の中で唯一、児玉について口頭で言及があった箇所。


「ベルギー:安楽死の実情」と題されたスライド

一部、 表現レベルの変更が行われているものの、
全体としては児玉の著書の小見出しを含め8行分のコピペと言ってもよい。

uの箇所は一字一句そのまま。

しかし出典については、スライドにも記述はなく、口頭での言及もない。


「近年ディグニタスに行って自殺する英国人が急増」と題されたスライド

最初にニューズウィークの情報が置かれている他は、
児玉の著書から「そのまま」あるいは多少の文言を弄った上で、
児玉の著書の論旨展開の通りに分節して並べただけのスライド。

3段落19行分の丸ごとのコピペと言ってもよい。

ここでも、いわば「児玉からの孫引き」の「BBCの報道」はわざわざ注記しながら、
児玉については、あたかも最後の項目だけが児玉からの引用であるかのように書かれ、
相変わらず口頭での児玉への言及はない。


「欧米の実情から」と題されたスライド

エマニュエルの発言箇所は拙著からの丸ごとの大きな「引用」であり、
児玉の翻訳がそのまま使用されているにもかかわらず、
出典情報の記述も口頭での言及もまったくない。


上野千鶴子先生からの引用は一度だけですが、スライドには書影まで挙げられ、
口頭でも著書名、著者名ともにきちんと言及しておられます。

「市民向けの講演」だったから、ではなく
「著者が学者でもなければ地位もない一市民」だったから、
つまり、どうせ「やってもいい人」と認定されたからですね。


こうした実態に対して、今なお昨年4月段階と同様に
「引用だった」「そのやり方が不注意だった」だけと主張される
松田先生の謝罪文の大半は私には到底承服しかねるものですが、

問題の講演がどのような意味においてであれ「著作権侵害」に当たるのかは、
私には判断できませんし、また私にとっての問題もそこにはあるわけではありませんでした。

なので、冒頭に挙げたエントリーに書いておりますように、
もともと、昨年4月21日にこれらの事実関係を明らかにして、
その判断を第三者の立場でご覧になる方々にゆだね、
それによって自分なりにこの事件にピリオドを打つつもりでおりました。

その意味で、講演ビデオが削除されたこと、
それによって客観的な事実関係がネットから消滅したことは、とても残念です。

私が作成したご講演のスライドおよび口頭でのご講演内容の文字起こしと拙著との対照表は
今なおこちらで、ご覧になれますので、 ↓
https://drive.google.com/file/d/0B90RQNXD3i8hNmNmY3JYd3Vta2c/view?usp=sharing
(文字が小さくて恐縮です。コメント欄の一部が、上記です)

この件について何がしかを云々される方は、松田先生の謝罪文だけでなく、
上記の対照表で事実関係の詳細をご確認いただいた上で、また、なるべくなら
冒頭のエントリーで経緯も把握した上でのことにしていただきたく、
よろしくお願い申し上げます。


私にとっては著作権侵害であるかどうかの問題ではなかった、という点については、
昨年4月19日のエントリー「やってもいい人 1」の後半部分に書いているとおりです。


私としては、松田純先生が2018年2月28日に公開された謝罪文で
私の仕事に対して敬意を払わなかった事実を認めておられる点と、最後の段落のみを、
受け取らせていただくことといたします。

その部分に示された松田先生の誠意に対して、お礼を申し上げます。

また、ほぼ1年間に渡るこれまでの推移の中で、
多くの方々にお世話になりました。

ありがとうございました。