難病で呼吸器が必要な子どもを授かった夫婦のドキュメンタリー映画”Our Curse”

NYTに、なんとも素晴らしいドキュメンタリー映画が紹介されています。

オスカー候補にもなった“Our Curse”

ポーランドのTomasz Sliwinski監督によるドキュメンタリーです。

こちらの映画サイトの説明では、

The film is a personal statement of the director and his wife, who have to deal with an incurable disease of their newborn son.

この映画は、生まれたばかりの息子の不治の病と直面せざるを得ない、監督と妻の個人的なメッセージ。


NYTの記事によると、
息子のLoe君が生まれたのは4年前。


別名、「オンディーンの呪い」と称される病気です。
映画のタイトルの「私たちの呪い」は、この病気の別名からとったもの。

息子が生まれてから数か月間の夫婦の揺れる思いを
なるべくありのままに描いた、と監督は語っています。

主として睡眠時に呼吸が止まるため、
Leo君は生涯呼吸器を必要とするだろうと医師から告げられた両親は
最初、自宅のソファに茫然と座り、悲観的なことばかり思い描きます。

一体この先どうなるんだろうか、とか
この子に意識があったら自殺したいんじゃないだろうか、とか、
がんばってもどうせ負けるに決まっているのに、とか、

不安でたまらない思いを吐露して、苦しそうです。

それでもLeo君が病院から自宅に帰ってきた日、
お母さんの顔に初めて笑顔が見えます。

呼吸器の大きな音に大丈夫かと不安になって何度ものぞきに行ったり、
これから自分たちはずっとこうして暮らしてくのかと暗澹としたり、

2人で交代しながら慣れないケアに一生懸命に取り組んだり、
夜中のアクシデントにお父さんが落ち込んだり、
その夜中につい怒鳴りつけてしまったことを悔やみつつも
怒鳴られてもLeo君が無反応だったことに不安をかきたてられたり、

医療機器の手配や支払いを巡る交渉がうまくいかずに
お母さんが落ち込んでウツ気味になったり、

この気持ちの揺れ幅の大きさが苦しいと訴えるお母さん。
お父さんも沈んだ顔で、二人はソファの両端に離れて座っています。

でも、この夫婦の救いは、
この小さなソファに並んで座って、酒を飲みながら
本音で語り合えることのように見えます。

そのうちに母乳を飲みながら眠ってしまうLoe君は、
いつのまにかお母さんから「私のちっちゃなネズミさん」と呼ばれていたり、

いろんなものに興味を見せ始め、
彼なりに成長し始めると、

こうやって呼吸器の音を聞きながらこの先ずっと暮らしていくのか、と
ボヤくお父さんの傍らで、お母さんは「でも、いい音よね」なんてつぶやいてみたり。

そうして一家はある日、
たくさんの荷物を装備してピクニックに出かけます。

お父さんがバーベキューでソーセージを焼いて、
お母さんがトマトをLeo君に食べさせようとして、
乳母車のLeo君を坂道でお父さんが受け止めて遊んだり、

どこにでもある、小さな子どものいる一家のピクニック。

乳母車から、青い葉っぱに無邪気に手を伸ばすLeo君は、
本当にかわいらしい赤ちゃんです。

それでもお母さんは、やっぱり沈み込んで、
Loe君を抱いたまま泣き続けることもあります。

ワルシャワへの病院通いも大変なんだけれど、
でも、それも自分たちの日常にしていこうとしている2人は
いつのまにかソファでぴったりくっつきあって、
酔っ払ってじゃれあったりも。

外で沐浴するLeo君。

いっぱい口から飛び散らかしながら、ものを食べるLeo君。

おもちゃで遊び、はしゃぐLeo君。

両親と一緒にダンスして、大喜びのLeo君。

Leo君の成長とともに
お父さんとお母さんの顔がいつのまにか明るくハッピーになって、

いつのまにか、どこにでもいる普通の家族--。


命にかかわる病気の子どもが生まれることを
NYTの記事は「親という親にとって、最悪の悪夢」と書いていますが、

そして、世の中は
そういう悪夢は科学とテクノロジーで排除してしまえば
簡単に問題が解決できるかのような”コントロール幻想”に席巻されていくようにも見えますが、


NYTの記事の末尾がこちら ↓

We wanted to show that that even the worst moments of life can be turned into something positive, provided you do not lose hope. For us, the story of our family is one of overcoming the worst, and ultimately, of being truly grateful for what we have.

人生最悪の瞬間ですら、希望を失わなければ、前向きな何かに代わることだってあるということを映画で伝えたかったんです。私たちにとっては、私たち一家の物語は、最悪を乗り越えて、最後には自分たちが持っているものに心から感謝するようになった、という物語なのです。

In December, Leo turned 4 years old. He is a cheerful young boy with a wonderful sense of humor, and is doing very well in school. His speech is still a bit delayed, but we’re helping him with it and I’m sure he will overcome this too – because our son is a real fighter.

12月にLoeは4歳になりました。
ユーモアのわかる明るい子です。学校でも頑張っています。言葉はまだちょっと遅れていますが、私たちも一緒に頑張っていて、きっとこれも乗り越えてくれるでしょう。Loeはfighter(頑張り屋さん)ですから。


映画はNYTの以下の記事から見れます(27分程度) ↓
http://www.nytimes.com/2015/02/02/opinion/our-curse.html

ポーランド語に英語の字幕ですが、映像だけで十分に伝わってきます)


すがすがしく美しい映画でした。

あぁ、そうだった、こうやって、
わが子の障害は「ごく普通の、私たちの日常」になっていったんだった、

目の前にいるのは「重症障害児」ではなくて、
いつだって「うちの海ちゃん」だった。

そんなことを思いながら、見ました。。