思考力

海の入浴時、
ネット製のシャワー・ベンチに寝転んだ海の両側に親が座ります。

身体を洗うのは母がメインで父親がサブ。
シャンプーは父親がメインで母親がサブ。

で、シャンプー時、何度か父親から
「はい。お母さんのほうを向いて」
「じゃぁ、今度はお父さんのほうを向いて」
というリクエストが出ます。

そういう時、
素直に言われた方向を向くのは半分くらいなので、
親は大変に手こずっております。

が、それは決して、
重い障害のために彼女が指示を理解できないからではありません。

イタズラ好きのこいつが、
常に、いかにして親を困らせてやるかを考え、
それに成功することを「生きがい」のようにしているからです。

そもそも、そこの段階にして、「思考力」なるものが
いわゆる重心児者といわれるウチの娘にはきっちり備わっていると
私たち夫婦は骨身に沁みて知っているわけですが、それはともかく、

ウチの娘がシャンプー時に
「お母さん(またはお父さん)の方を向いて」とリクエストを出された時に、
よくやらかすのは、以下の3つのいずれか。

瞬間芸

一瞬だけ、言われたほうを向く。

そして、
「お、素直に向いたじゃん。えらいじゃん」などと喜んで気を許す親を尻目に、
次の瞬間には、さっと逆方向を向く。

「こら。瞬間芸じゃなくて、もうちょっとこっちを向いといて」と
叱られながら、頑固に反対方向を向いたままニタニタしている。

② わざと逆方向。

何食わぬ顔つきで、わざと言われた反対側を向く。

「お父さんのほうを向いて」
「はいはい」(という感じで)
「こら、お母さんはお父さんじゃないよ。お父さんはあっち」

モンクを聞き流しつつ、
「えへへ」という目つき顔つきで嬉しがる。

③ 「あっち向き、こっち向き」する。

どっちを向けと言われようが、おかまいなし、
親の動きを読み、親が洗ったり流したりしようとしている反対側に
また絶妙の一番イヤなタイミングで、くるん、と頭を向ける。

それで、やむを得ず親が反対側を洗ったり流したりしようとすると、
すかさず、くるん、と、また向きを変える。

そうやって、瞬時の鋭い判断で、あっち向きこっち向きを繰り返しては
親をとことん困らせて「イッヒッヒ」と、めっちゃ楽しそうな顔になる。

そういうことをされると、
耳に水が入りそうになるわ、目の周りにシャンプーも飛ぶわ、
ちゃんと洗えないので、親としてはお手上げ状態になるのですが、
「もう処置なし」というボヤキは海には最大の賛辞らしく
「おー、いただきましたー」とばかりの恍惚の表情に。

まさに「処置なし」のヤツなのですが、

この週末、今週の作戦はどうやら②らしく、
言われた反対を向くことを繰り返し、親をオモチャにしては、
ひゃっ、ひゃっ、と、お楽しみの様子だった。

そこで一計を案じた父親が、
明らかに「お母さんのほう」を向かせようと意図しつつ
「海さん、お父さんのほうを向いて」とリクエストした。

海は、一瞬だけ(5ミリくらい)、母のほうを向こうとして思いとどまり、
次のほんの一瞬間、今度は父のほうを向こうか、として、これも思いとどまり、
やむをえず中立の真上を向いた。

そして、しばし黙考。

その顔は明らかに、
父親が意図とは反対の指示を出したことを察知し、

その上で、
あたしは今、効果的に親に逆らうには、一体どっちを向くべきなのか……。

ちょっとだけアワアワ焦りながら、
マジで考えこんでおりました。

その顔が可笑しくて、
親はつい爆笑してしまう。

海、あんた、ほんま、オモロイやっちゃわ。


重心児者は
感情はあるけど思考はできないという人がいるけど、

違うと思います、それ。