ポテト ②

ポテト(2012/3/4) の続編のような
オモロイ場面が先週あったので。


海を連れて、いつものショッピングモールに行った。

フードコートの海鮮丼かオムライスかハンバーグなら、そのまま食べられる。
フードコートなら、少々騒いでも気兼ねもない。

今回は、海のチョイスでサーモン月見丼。

いつも通りに小さな一口ずつを繰り返して、いつのまにか一人前を平らげる。
(ごはんが乾くので、持参の我が家特性「とろみ出汁」を途中で追加する)

ここしばらくは、食べ終わっても「ごちそうさま」を拒否して、
「まだ食べる。もう一つどんぶりを食べたい」と言い張ることが多い。

(海は言葉は「ハ」しか持ちませんが、
音声や顔や全身の表情で本当にそう「言う」のです)

まさか丼メシ2人前を食べさせるわけにもいかないので、
たいていは親の方が食べたい「食後のデザート」へと話を誘導し、
なだめすかして、アイスまたはソフトクリームを食べることで決着する(させる)。

ところが、今回は
アイスにもソフトクリームにも「違う!」。断固拒否。

「食べたいのはメシ系だ」と言い張る。

そこでやむなく思いついたのが、
一時ムセがひどくなって以来ご無沙汰している、海の大好物のフライドポテト。

これなら、Sサイズを買って3人でつまむ分には分量としてもよかろう、と
モスのフライドポテトを買ってきて、目の前に提示させていただくと、

「ん……? おいっ! でかしたではないか!」との仰せ。

短くちぎり、それをさらに二つに割って、ふーふーしてから、
唯一ちゃんと噛める左奥歯の上に置いてやると、
いっしょーけんめいに噛んではムセずに食べる。

「次も」と要求しつつ、ぱくぱく食べる。

そのうちに、やっぱり思い出して「持たせろ」と手を出してくるので、
冷ましてから1本を持たせたところ、

持っているだけで満足なのか、それは手に握りこんだまま
口を開けて「(袋の中のを)食べさせろ」と催促。

ちぎって口に入れてやるのを
ぱくぱくと食べ続けているうち、

ふと右手に握ったのをじっと見た。

じい……。

そして、ぐいっと母の方に突き出した。

「え? くれるん?」 

さらに、ぐいっ。

それなら……と、母がありがたく海の手から噛み切っていただくと、
海は、それはそれは満足そうな顔をした。

そこで当然のことながら父親が言う。
「お父さんには?」

そこで当然のことながら、次の1本を握らせて私が言う。
「お父さんにもあげんさいや」

海はビミョーな表情で無視。手はぴくりとも動かない。

そ知らん顔で口を開け、「次を食べさせろ」と要求する。

「あらま。あげんのん?」

 無視。

「お父さんにも、ちょーだいよ」

 無視。

ふた親それぞれから非難されるのを知ら~ん顔で聞き流しつつ、
2本目を握りこんだまま、さらにぱくぱく。

ほとんど食べ終えそうなあたりで、
手に残った1本にじいいいいいっと見入る海。

ほほう、さすがにお父さんにあげることを考えとるな……。

と、その瞬間。

なんと海の右手は緩やかな弧を描いて、自分の口へ。

え……?

うまいこと左奥歯へもっていき、上手に噛み切って、
ガシガシ噛んで、スムーズに飲み込む。
 
日頃なら絶対ありえんような見事さで。ムセることもせず。

すましこんで、それだけのプロセスを完了し、
ちょっと遅れで、横目で父親をチラ見する。

ほんのわずかに「へっへ」という気配を漂わせて。

うへー。

あんた、あの「じいいいいいっ」の間に、
そんだけのことを企んどったの?

なんちゅうやっちゃ。

――うちの娘、なんか芸人の素養があるように思うんですけど。