日本集中治療医学会から「DNAR指示のあり方についての勧告」
当ブログでは、
英国で社会問題化した一方的なDNR指定の慣行や、
米国で「無益な治療」拒否のアリバイと化しているPOLSTの法制化について
大きな懸念を持って何年も追いかけつつ(詳細は文末にリンク一覧を整理)、
英国で社会問題化した一方的なDNR指定の慣行や、
米国で「無益な治療」拒否のアリバイと化しているPOLSTの法制化について
大きな懸念を持って何年も追いかけつつ(詳細は文末にリンク一覧を整理)、
患者の自己決定権に依拠した「死ぬ権利」をめぐる患者の意思の尊重ではなく
むしろ医療サイドの決定を患者が追認する、日本型の「無益な治療」論ではないか、という仮説に
ついに至ったところなのですが、
むしろ医療サイドの決定を患者が追認する、日本型の「無益な治療」論ではないか、という仮説に
ついに至ったところなのですが、
まさに、ここでずっと書いてきた疑問が
この勧告で網羅され、逐一指摘されていることに、
これこそが「医療専門職のインテグリティ」というものだろう、と。
この勧告で網羅され、逐一指摘されていることに、
これこそが「医療専門職のインテグリティ」というものだろう、と。
注:当ブログでは日本でもPOLST導入の動きがあることまでは知っていたのですが、
実際に日本臨床倫理学会が「日本版POLST]という名称の様式を作っていることは知らず、
上記の「POLSTまがいの書式による入院・入所時の意思確認」の慣行を
「日本版POLST」と総称してきました。
実際に日本臨床倫理学会が「日本版POLST]という名称の様式を作っていることは知らず、
上記の「POLSTまがいの書式による入院・入所時の意思確認」の慣行を
「日本版POLST」と総称してきました。
2016年12月16日
Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告
一般社団法人 日本集中治療医学会
理事長 西村 匡司
倫理委員会委員長 丸藤 哲
関係各位
2007年に厚生労働省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、患者本人による決定を基本としたうえで、患者と医療・ケアチームの話合いに基づく意思決定プロセスを重視する考え方が終末期医療の主流となった。2014年に日本集中治療医学会は「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」を発表したが、この年は2007年版ガイドラインを改定した厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表された年でもある。
この十数年間で終末期医療(人生の最終段階における医療)のあり方に関する理解が深まり、患者の尊厳を無視した延命医療の継続は大きく減少していると私どもは信じている。しかし、DNAR指示のもとに基本を無視した安易な終末期医療が実践されている、あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が最近浮上してきた。日本集中治療医学会理事会ならびに倫理委員会は、DNARの正しい理解に基づいた実践のためには下記の諸点に留意する必要があることを勧告する。
勧告
1.DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである(注1)。
2.DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである(注2)。
3.DNAR指示に関わる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである(注3)。
4.DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである(注4)。
5.Partial DNAR指示は行うべきではない(注5)。
6.DNAR指示は日本版POLST - Physician Orders for Life Sustaining Treatment - (DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない(注6)
7.DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する(注7)。
注1
心停止を「急変時」の様な曖昧な語句にすり変えるべきではない。DNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない。
注2
終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止に心停止時に心肺蘇生を行わない(DNAR)選択が含まれることもある。しかし、DNAR指示が出ている患者に心肺蘇生以外の治療の不開始、差し控え、中止を行う場合は、改めて終末期医療実践のための合意形成が必要である。各施設倫理委員会がDNAR指示と終末期医療に関する指針(マニュアル)を明確に分離して作成することを強く推奨する。
注3
厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」の内容を忠実に踏襲すべきである。
注4
DNAR指示は患者が終末期に到る前の早い段階に出される可能性がある。このため、その妥当性を繰り返して評価し、その指示に関与する全ての者の合意形成をその都度行うべきである。
注5
Partial DNAR指示は心肺蘇生内容をリストとして提示し、胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない、のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示である。心肺蘇生の目的は救命であり、不完全な心肺蘇生で救命は望むべくもなく、一部のみ実施する心肺蘇生はDNAR指示の考え方とは乖離している。
注6
日本版POLST (DNAR指示を含む)は日本臨床倫理学会が作成し公表している。POLSTは米国で使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用医療指示書である。急性期医療領域で合意形成がなく、十分な検証を行わずに導入することに危惧があり、DNAR指示を日本版POLST準じて行うことを推奨しない。
注7
日本集中治療医学会倫理委員会が評議員を対象に施行した「臨床倫理に関する現状調査」では、臨床倫理を扱う独立した倫理委員会が設置されている施設は67.1%である。DNAR指示は臨床倫理の重要課題であり、終末期医療の実践とともにDNAR指示を日常臨床で行う施設は独立した臨床倫理委員会を設置するよう推奨する。
(この頃に日本弁護士連合会に提出した報告書にも同様の内容があります)
(7) POLST、「自己決定」の強要
現在、米国の医療で新たにPOLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment:生命維持治療に関する医師の指示書)の法制化が進みつつある。いくら啓発しても事前指示書を書く人が増えないことから、その対応策として編み出されたものと思われ、患者の終末期の意思の尊重のために、医師の主導で終末期医療について話し合いをし、医師が聞きとった患者の意思を医師の指示書という形で1枚の様式に記録しておくもの。2013年6月段階で法制化しているのは20州。ただし、2013年にPASを合法化したばかりのバーモント州を含むいくつかの州の法律では、仮に患者が万一の場合の心肺蘇生を希望しているとしても、医師が「無益」と判断する場合には、患者や代理決定権者の同意なしにPOLSTに「蘇生不要(DNR)」指定を記入することが認められており、様式にも「同意なし」のチェック項目が設けられている。
日本でもPOLST導入に向けた動きもあるが、それ以前に、特に名称もなく法的な裏づけもないまま、施設入所の際や病院への入院の際に、万が一の場合の終末期医療で考えうる処置や治療について、実施の希望の有無を確認し文書化することが多くの現場ですでに慣行化している。
しかし入所や入院の段階で、自分がどのような状態や状況でそういう事態に直面するかを具体的に想像することは困難であり、また終末期の医療をめぐる判断も患者の意思決定も、実際にそういう状況になった際の、あるいは実際にそういう事態が想定される中での、固有の症状と固有の状況の中で個別具体の検討でしかありえないもののはずである。漠然とした「終末期」の想定で深く考えず、単なる事務手続きの一部として記入した文書の内容が、現実にその事態が起こった際には「患者の自己決定」として「尊重」されるのだとしたら、いかにも乱暴な話であり、自己決定の不当な強要ではないか。
現在、米国の医療で新たにPOLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment:生命維持治療に関する医師の指示書)の法制化が進みつつある。いくら啓発しても事前指示書を書く人が増えないことから、その対応策として編み出されたものと思われ、患者の終末期の意思の尊重のために、医師の主導で終末期医療について話し合いをし、医師が聞きとった患者の意思を医師の指示書という形で1枚の様式に記録しておくもの。2013年6月段階で法制化しているのは20州。ただし、2013年にPASを合法化したばかりのバーモント州を含むいくつかの州の法律では、仮に患者が万一の場合の心肺蘇生を希望しているとしても、医師が「無益」と判断する場合には、患者や代理決定権者の同意なしにPOLSTに「蘇生不要(DNR)」指定を記入することが認められており、様式にも「同意なし」のチェック項目が設けられている。
日本でもPOLST導入に向けた動きもあるが、それ以前に、特に名称もなく法的な裏づけもないまま、施設入所の際や病院への入院の際に、万が一の場合の終末期医療で考えうる処置や治療について、実施の希望の有無を確認し文書化することが多くの現場ですでに慣行化している。
しかし入所や入院の段階で、自分がどのような状態や状況でそういう事態に直面するかを具体的に想像することは困難であり、また終末期の医療をめぐる判断も患者の意思決定も、実際にそういう状況になった際の、あるいは実際にそういう事態が想定される中での、固有の症状と固有の状況の中で個別具体の検討でしかありえないもののはずである。漠然とした「終末期」の想定で深く考えず、単なる事務手続きの一部として記入した文書の内容が、現実にその事態が起こった際には「患者の自己決定」として「尊重」されるのだとしたら、いかにも乱暴な話であり、自己決定の不当な強要ではないか。
米国のPOLST(生命維持治療に関する医師の指示書)については ↓
医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26)
一方的な「無益な治療」拒否のアリバイ化するPOLST(2013/6/16)
POLSTは米国の重症児の教育現場にも広がろうとしている(2016/3/17)
医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26)
一方的な「無益な治療」拒否のアリバイ化するPOLST(2013/6/16)
POLSTは米国の重症児の教育現場にも広がろうとしている(2016/3/17)
一方的なDNR指定をめぐり、患者との話し合いが前提とする判決が出た
英国のJanet Tracey事件については ↓
「本人にも家族にも知らせず“蘇生無用”はやめて一律のガイドライン作れ、と英国で訴訟(2011/9/15)
「米国の救命優先ルールの轍を踏まず、英国医師はDNR決定権守れ」(2013/3/27)
一方的DNRめぐるJanet Tracey訴訟で、「患者との話し合いが前提」(2014/6/18)
英国のJanet Tracey事件については ↓
「本人にも家族にも知らせず“蘇生無用”はやめて一律のガイドライン作れ、と英国で訴訟(2011/9/15)
「米国の救命優先ルールの轍を踏まず、英国医師はDNR決定権守れ」(2013/3/27)
一方的DNRめぐるJanet Tracey訴訟で、「患者との話し合いが前提」(2014/6/18)
ちなみに、英国看護学会は今日の日付で
自殺幇助を含めた終末期医療についての患者からの要望への対応ガイドラインを
改訂していますが、その中からはLCPの記述は削除されているとのこと。
https://www.nursingtimes.net/news/policies-and-guidance/rcn-updates-guidance-on-i-want-to-die-requests/7014417.article
自殺幇助を含めた終末期医療についての患者からの要望への対応ガイドラインを
改訂していますが、その中からはLCPの記述は削除されているとのこと。
https://www.nursingtimes.net/news/policies-and-guidance/rcn-updates-guidance-on-i-want-to-die-requests/7014417.article
【2018年2月21日追記】
この勧告の前段階で行われた医師と看護師に対するアンケート調査の報告論文。
とても興味深いです。
この勧告の前段階で行われた医師と看護師に対するアンケート調査の報告論文。
とても興味深いです。
医師が本人の意思も家族の医師も看護師の意見も聞かず独断で決めている実態があらわ。