『世界アルツハイマー・レポート2013』

世界アルツハイマー・レポート2013

国際アルツハイマー病協会(ADI)から『世界アルツハイマー・レポート 2013 介護の旅路:認知症介護の分析(World Alzheimer Report 2013 Journey of Caring: AN ANALYSIS OF LONG-TERM CARE FOR DEMENTIA)』が出たので、キー・メッセージと提言部分を読んでみた。

世界的な人口の高齢化により、依存状態にある人は2050年には2010年の3億4千900万人から6億1千300万人へと倍増し、要介護状態の高齢者は特に低・中所得国を中心に、1億100万人から2億7千700万人へと3倍に増えると見込まれる。要介護高齢者の半数、施設入所者の5分の4に認知症があるように、認知症介護は高齢者介護の問題の中心課題である。各国政府は認知症を優先課題と位置づけ、良質なケアを提供するべく、医療と介護を統合するシステムと予算を盛り込んだ計画を立てる必要がある。

各国政府は国民的議論を始めるべきだとして、報告書が提言している議論の論点は以下の3つ。①介護における国、民間企業、第3セクター、そして家族の役割と責任のバランス。②サービス内容やサービス受給対象者など介護制度の構造。③介護財源。

報告書が提言の中で重視しているのは、介護の質の改善である。特に必要とされているのは、①介護の質の計測とモニタリング。②自律と選択の推進。③認知症の人への介護の調整と統合。④認知症の人々を介護するマンパワーの尊重と開発。これまでのモニタリング・評価は法令遵守のチェック中心で、サービス内容や提供状況の不備に目が向かいがちだが、そうした監査データだけでなく、パーソン・センター・ケアの優れている面が正しく評価されるよう、本人や家族、介護者のQOLや満足度など、アウトカムにも目を向けなければならない。本人や家族や介護者のニーズの個別性に応じたパーソン・センター・ケアの実現には、シンプルで切れ目のない、透明で利用可能な介護システムとサービス、柔軟な個別ケアプランが必要だ。

もう一つ、報告書が繰り返し強調しているのは、有償・無償を問わず介護者を社会が認知し尊重することの重要性だ。社会は彼らの働きの重要性を認知し、適切に報いなければならない。家族など無償介護者には介護のために失った労働機会への補償、有償介護者には適正な賃金報酬など、金銭的にきちんと報いるほか、有償の介護者にはスキル開発やキャリア・アップの機会があって然り。また無償介護者に対して、教育、トレーニング、支援とレスパイトから成る多面的な介入を行うことによって介護ストレスが軽減される、との強力なエビデンスがある。実際のところ、介護者支援は「在宅からケア・ホームへの移行を減らし、あるいは遅らせる効果が実証されている唯一の介入」なのだ。報告書は「各国政府は介護者の役割を認識し、介護者を支援するための政策を設ける必要がある」と提言している。

そのほかに興味深かった指摘として、財源論を巡って、「ペイアズユーゴー」原則は「本質的に財政的に持続不可能」とし、それぞれの世代が就労年齢の間に将来の自らの介護ニーズに備えて集団として必要な資源を蓄えておく形での「完全支給」プログラムへの移行が、「たとえ痛みを伴うものであるとしても、絶対に必要」と述べられている。

またケア・ホームについての指摘がたいへん興味深い。高所得国では、認知症の人本人が家庭で家族に介護されることを望んでおり、その方が介護の質が高く安価でもあるとして、施設介護から在宅介護への移行が進められているが、この主張にはエビデンスは存在しない、というのである。特に認知症が進行した人では、ケア・ホームでのQOLは在宅と変わらないばかりか、時には在宅より高いこともある。無償の家族介護者の貢献を適切にカウントすれば、実はコストも変らない。「ケア・ホームは認知症介護システムにおける重要な構成要素であり、今後もそうあり続ける」と報告書は書いている。


認知症の人に、もっとしっかり痛みの管理を

『カナダ医師会雑誌(CMAJ)』は9月23日付で『認知症の人にはもっと良い痛みの管理が必要』と題した論説を発表。認知症の人々の多くには慢性的な痛みがありながら、気づかれず痛みの管理がおろそかになっている。医療現場から、認知症の人たちは痛みを感じにくいとの誤った思い込みを廃し、看護師への痛み管理の研修を充実して、ベッド・サイドでのパーソン・センターで注意深いケアを行うべきだと訴えている。

認知症の人はノン・パーソン(非人格)ではないし、ノン・パーソンであるかのように扱うべきではない」と、著者。

連載『世界の介護と医療の情報を読む』89
介護保険情報』2013年11月号