自力で呼吸できる重症障害児に、裁判所から初めての「死ぬことが本人の利益」判断(英)

英国で、自力で呼吸できる重症障害児に初めて、親の意思決定により、
栄養と水分の停止による尊厳死が認められている。

Nancy Fitzmauriceさん(12)さんは
母親が妊娠中にB群レンサ球菌(GBS)に感染したため、
生まれた時に水頭症髄膜炎、敗血症があり、生まれつき目が見えなかった。

生後6ヶ月でてんかんの診断。
発作が毎日あった。

歩くことも話すことも、食べることも飲むことも出来ず
そのため24時間の病院ケアが必要で、
チューブを通して栄養と水分と薬を摂取していた。

その後、滑脳症と小頭症と診断された。

2012年に腎臓結石を取り除く手術で感染症を起こし、
医師からこれ以上できることはない、と告げられた。

そこで母親は離婚した父親の同意を経て
Great Ormond Street 病院の倫理委に
Nancyの苦しみを終わりにしてほしいと要望。

医師らは栄養の停止には同意したものの
水分の停止はできないと言い、
栄養のみの停止ではNancyは死ぬのに数ヶ月もかかることになるため、

母親のCharlotte さんと病院は裁判所に
水分の停止への許可を求めた。

高等裁判所の判事は即座に許可。

Nancyさんは8月1日に死亡。

両親は、こうした判断は
裁判所の許可を必要とせず、親が医師と相談の上で決断できるべきだとし、
それを訴えるために自分たち親子の体験を公表する、と。




なお、記事の中で言及されているベビーRB事件は
病院サイドと母親の「無益な治療」停止判断に父親が抗ったケースでした ↓
QOL低すぎると障害乳児の生命維持停止求め「無益な治療」訴訟(英)(2009/11/6)

もう一つ、「死ぬ権利」関連のケースとして
この記事で言及されているHannahさんについては ↓
13歳少女、延命効果なくても心臓移植やりたがる医師にNO(英)(2008/11/14)

Hannahさんについては、今年の4月に以下のエントリーで触れている。↓
「自己決定権」と「医療の不確実性」の関係をぐるぐるしてみる 1(2014/4/22)

これら2つの事件についても同様なのだけれど、
Nancyさんのケースもむしろ「無益な治療」論に属するような気がして、
それが「自己決定権」であるはずの「死ぬ権利」を親が代理で請求するといった
妙な文脈におかれていることに違和感があるほか、

生まれた時の敗血症とか、腎臓結石の手術での感染症とか、
私には治療できる急性期症状のように思われるのだけれど、
それがあたかも慢性的なものであり、
Nancyさんの障害の重症度の根拠のよう書かれていることとか、

あと、Nancyさんが長時間、痛みに泣き叫び続けていたのが
何の痛みだったのか、が最後までよく分からなかったり、

裁判官が母親の申し立てを読んで、即決したように読めたり、
お母さんに賞賛の思いを伝言していたり、という点も、
どこまで事実関係を確認した上での裁判所の判断だったのか、

そこらあたりのもろもろの事実関係がはっきりしないと、
ちょっと考えようがない気がする事件。

ただ、こうした「前例」が作られた、という事実は重い。




11月10日のメモから抜粋 ↓

10月28日のエントリーで取り上げた自力で呼吸できる重症障害児に、裁判所から初めての「死ぬことが本人の利益」判断(英)、Fitzmaurice判決を、メイナード事件の一方に置いて「尊厳ある死」議論に疑問を呈する論考、NBCニュースに。C&Cは取材を拒否。取材を受けてArt Caplanが米国では安楽死や自殺幇助が子どもに適用される可能性はゼロだと断言しているんだけど、米国カナダの「無益な治療」論でとっくに起こっていることは、じゃあ何なの?
http://www.nbcnews.com/health/health-news/juvenile-death-dignity-u-k-case-may-hurt-aid-dying-n242961