A・Caplanがビッグファーマのために「終末期の患者が未承認薬をトライする権利」めぐり審査委員会立ち上げへ

ちょうど1年前に拾った、以下の話題の続報。
「死ぬ権利」の次は、未承認の実験的新薬を「トライする権利」(2014/5/19)


Art Caplanって、ペンシルベニアからNY大学へ移ってから
なんか言うことがちょっと変わってきたんでは……? と
そこはかとなく感じていたんだけれど、

はー、なるほど、こういうことになりますかぁ……てな。


米国の製薬会社に
まだ実験段階の新薬を使わせてほしいという重病患者や家族からの依頼が
最近どんどん増加しており、

(もともとは80年代のエイズ流行時に認可を待っていられない患者達が
先行的な使用を求めたことが始まり、と今回のNYTにあります)

米国の規制では「思いやり特例(利用)」として、
そういう患者への提供も認められてはいるものの、

手続きが厳格で時間がかかることや、
まだストックが十分でないため製薬会社がしぶることとか、
そうした提供で実験プロセスが遅くなることとか、
平等な治療へのアクセスや安全性の未確認という倫理問題とか、

なかなか複雑な問題があって議論になっているという状況については
上にリンクした去年5月のエントリーにありますので、そちらをご参照ください。

以下のNYTの記事によると、
2010年度にFDAがそうした「思いやり特例」を認めたのは1014件。
2014年度には1873件と85%も増。

中でも、希望者や家族がツイッターやFBなどで
「未承認の新薬をトライする権利」を訴えて世論の支持を集め、

製薬会社が要望を却下すると、猛烈な抗議が殺到して
見直し対応を余儀なくされるケースも出てきており、

SNSの利用者が有利になるという、
また別の「公平性」の問題も。

いくつかの州ではRight to Try 法を成立させて
FDAの「思いやり特例」承認プロセスの回避が可能になった。

製薬会社としても、
未承認薬の提供は法規制上、無償提供となるが、
そうした要望に応じるかどうか、どの患者に提供し、どの患者を拒むか、
一定の基準を設けつつも、決定プロセスには悩ましさが付きまとう。

そこでジョンソン&ジョンソン(J&J)が考え付いたのが
NY大のチョー有名な生命倫理学者、アーサー・カプランに依頼して
業界初の専門家による検討委員会を立ち上げよう、
そうすれば他の会社も後に続くだろう、と。

J&Jのchief medical officerのJoanne Waldstreicher医師は

「科学におけるイノベーションが患者に大きな可能性と大きな約束を提供する時代に
こういうことをやろうというわけです。

検討プロセスは今後もずっと必要になってきます。
それは公平で客観的な、そして何よりも大事なこととして患者中心の
プロセスでなければなりません」




なにしろ、potentially life-saving な新薬だから――。

こんなふうに
「命を救う可能性のある○○」という表現って、
ある一定の文脈でのみしきりに使われているように思われてならないんだけど。