ナーシングホームでワーファリンをめぐる問題が多発(米)

脳卒中心筋梗塞の治療、血栓症予防に広く使われている血液抗凝固薬
ワーファリン(Coumadin)をめぐる問題で、
米国のナーシング・ホームの高齢者が命を落としたり
重大な健康被害を受ける事例が増えている。

ワーファリンは治療効果が大きい反面、
同時に摂取してはならない食べ物や薬があったり、
量が少なすぎると血栓ができ、多すぎると出血を生じるため、
定期的な血液検査など慎重に使用する必要がある。

米国政府の監査報告書をProPublicaが分析したところ、
2011年から2014年の間に少なくとも165人のナーシング・ホーム入所者が
ワーファリン関連の過誤で、入院または死亡。

様々な調査から、
実際の有害事象はそれよりもはるかに多いのでは、と疑われる。

ナーシングホームの入所者の安全確保には
以前から様々な問題が指摘されてきているが、
特に近年では高齢者への抗精神病薬の過剰投与で
ぼんやりしたり、転倒が命の危険につながるなどの問題が深刻。

全国的なキャンペーンも行われて
2011年から2014年にはナーシングホームでの抗精神病薬の使用量は
20%減少したが、

ワーファリンの危険性は比較的注目を集めずにきた。

しかし、例えば、
施設がCoumadinの効果を増強する抗生剤を飲ませて、
医師に伝えなかったために、慎重な凝固能検査が行われずに死亡した事例や、

腰の手術を受けた人に施設がCoumadinを50日間も飲ませず
医師の指示通りの血液検査もせずにいたために
脚の血栓症を起こして入院することになった事例、

Coumadinを飲んでいる高齢者が全身にあざを作っているのに
血液検査をせずに放置するなど、

定期的な行政の監査であぶりだされる事象のほかにも
多くの被害があると思われる。

2007年にThe American Journal of Medicineに掲載された研究によると、
毎年34000人の入所者がワーファリンで死亡したり、
あるいは命に関わるような重大な被害に遭っている。

North Carolinaのデータでは、ナーシングホームでは
他のどの薬よりもワーファリンの過誤が多い。

一方、これらの事象に対して、
メディケア&メディケイド・サービス・センター(CMS)もナーシングホーム業界も
対応が鈍いが、

昨年、米国保健福祉局はCoumadinをはじめとする抗凝固薬を
有害事象が最も多発している薬のカテゴリーに挙げ、
CMSも監督強化に乗り出した。

メディケアの薬の給付プログラム、パートDで2013年に
ワーファリンの処方を1回でも受けた高齢者と障害者は240万人。
米国で最もよく使われている薬の一つ。

米国のナーシング・ホームの入所者130万人の6人に1人が
抗凝固剤を飲んでおり、その大半はCoumadinかそのジェネリックを飲んでいるが
近年はさらに使いやすいEliquis, Pradaxa, Xareltoなども登場。

が、高齢者は複数の持病があるため、事情は簡単ではなく、
新薬それそれに難点も。

またワーファリンの管理の難しさは、
ナーシングホームの高齢者に限ったことではなく、
実際に狙い通りの効果が得られたのは54%に過ぎないという報告もあれば、
2011年にthe New England Journal of Medicineに掲載の報告によれば、
2007年から2009年に緊急入院した高齢者33000人で
ワーファリン関連がダントツ。
2位のインシュリン関連の倍以上の事例があった。

ワーファリンのモニタリングの難しさを考えると、
医師、看護師、薬剤師、検査室の連携の難しいナーシングホームは
「まずいことが起こるパーフェクトな環境」ということに。

テキサスのあるナーシング・ホームでは
医師の指示もなければモニタリングもなしに34日間
Coumadinを飲まされた高齢者が、病院に運ばれた時には
口の中に血がたまっていたという。

ミネソタ州のホームの入所者は
17回分のワーファリンを飲めずにいたために
脚の血栓の手術を3回も受ける羽目に。

検査結果に異常があってもホームが医師に知らせなかったり
ワーファリンを飲んでいる患者が転倒しても
適切な対応がされていなかったりする事例も。
(緊急でもないのに夜間に連絡すると嫌がられるから)

実際に多くの高齢者はワーファリン治療を必要としており、
それらの処方を萎縮させることなく、
きちんと管理を徹底させることの困難に
関係者は頭を抱えている。



個々の事例で起きたことを読んでいると、
これは一体、ワーファリンの問題なのか、
ナーシング・ホームのケアの質の問題なのか、

わからなくなってくる……。