浅野一恵他「重症心身障害児施設入所者の家族に終末期医療に対するアンケート調査を施行して(原著論文)」

「重症心身障害児施設入所者の家族に終末期医療に対するアンケート調査を施行して(原著論文)」
浅野 一恵(小羊学園つばさ静岡), 山倉 慎二
日本重症心身障害学会誌 (1343-1439)38巻3号 Page455-461(2013.12)



当施設に入所している重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))63名の家族に終末期医療に対するアンケート調査を行った。アンケート回収率は80.9%であった。終末期医療に対する基本的姿勢の項目では、「回復が見込めない場合は施設で看取ってほしい」が64.7%、「家族が看取りたい」31.3%、「できるかぎりの集中治療を受けたい」3.9%であった。終末期の医療介入の項目では、「心肺蘇生術を希望する」54.9%、「人工呼吸器装着を希望する」11.8%、「人工透析血漿交換を希望する」7.8%であった。今回終末期医療に対するアンケートを施行したことにより、必ず訪れる終末期を家族に意識してもらう効果があったと考えた。また家族全体で考え合ってもらったことにより、ご本人を主体として終末期のあり方を考える大きな一歩となった。


同じ親として、なにより心にずしんと響いたのは、
6例が挙げられている自由記載。

以下に。

例1
迫る死に対して自分の人生の最期はどうしたいのか、明確な意思をこどもから聞きたい、その意思を尊重したい、しかしこどもの意思を確認することはできない。したがって父母が望む「人生の最期」にこどもも合わせてもらうしかないと思っている。思いは死が安らかなものであり、自然な流れの中で最期を迎えたい。苦痛・疼痛からなるべく遠ざける治療を希望するが、延命のための治療はしないでください。
 

例2
生後から今日までずっと闘いの日々だったので、これまでに家族で生命について生きるとは何か、障害を持ってでもなお生きていかねばならない理由、終末期医療のあり方について何度も何度も話し合い本日に至っている。人間はどんな人も輝く人生を約束されて生まれてきたと思えるようになり、息子の命の輝きを模索してきました。父親も延命を望まないという姿勢で命の灯を消しました。息子も自然の中での死を望みたいと思います。同時に私も妹も同じ姿勢で終わりを決めています。私たち家族は息子たちの人生が精一杯輝くよう努力をし、息子たちも私たちに生きるとは何かを教えてくれました。


例3
本当は延命治療をして1分1秒でも長く生きてほしい。だがそれによって息子が苦しむことはぜひとも避けたい。あれだけ肺が悪化している中自発呼吸で頑張っています。最後は静かに穏やかに旅立たせてあげたい。
(ゴチックはspitzibara 以下同様)


例4
終末期について今は元気なのであまり考えられません。考えたくなかったというのが本当の気持ちです。娘を先に送りたいがどういう送り方をしたらいいか今も分かっていません。


例5
10歳ごろから幾度となくICUでお世話になりその都度命を助けていただいた経緯があり、そのたびにもうだめかもうだめかの35年間でしたので、家族の間ではもうこれ以上体を傷つけてほしくない思いがあります。痛みがあれば痛みをとってあげ、苦しみがあれば苦しみをとってあげる生活を送らせてあげたいと思います。


例6
この世に生まれた以上、終末期は誰も避けては通ることができません。面会に行ってあの子の笑顔、ぬくもり、重さを自分たちに抱えて家に帰ります。あの子の夢をみては枕を濡らし、何年たっても子離れができません。3人一緒にいくことができたらと思うことがあります。施設にお世話になると決めたときから最期は間に合わないことは覚悟しています。そのときがきたら一生懸命世話してくださっている施設の皆さんに見送っていただければ一番いいと思っています。いままで痛い思いや苦しい思いをさせてきましたので、最期は安らかに苦しむことなく眠ってほしいというのがわたしたちの願いです。延命は願っておりません。すべてを飲み込んで流したつもりですが、心の片隅ではどんな姿になってもいい一分一秒でも長く生きてほしいと思う自分たちがいます。


その他、特に印象的だったこととして、

医療ケアのある症例で人工呼吸器や人工透析を含めた積極的治療を望む家族が多い。

著者らは「医療ケアを熟知していることや、すでに医療ケアを受け入れているために
更なる医療を受けることへの抵抗感が薄いからではないか」と考察している。

また以下のようにも書かれている。

……終末期の問題は統計学的な検討のみでは、どのような治療が最善かを結論付けることはできず、個別にご家族の中で話し合ってもらい、施設職員と共有していく過程こそが重要なのではないかということに思い至った。


② アンケート後に施設で24歳で看取った症例で、

20歳の時に無気肺、急性呼吸不全が出て、
家族が積極的な治療を望んだのでK病院に入院して人工呼吸管理を受けている。

離脱できて1ヵ月後に退院したが、その際に
「年齢が20歳を越えたため、今後K病院での入院治療はできないとの説明を受ける」
記述されている。


③ 本人が意思決定できにくい重症児者の「最善の利益」を考えるに当たって
著者らが重要としているのは

・田村らが「重篤な疾患を持つ新生児の医療をめぐる話し合いのガイドライン」で
 提唱されている「共同意思決定」でのプロセス重視。

・一方、新生児とは異なり、家族との時間の共有があり、
 家族にしか分からない本人の表出もあるので、家族の意思の尊重。

・また一方で、施設入所後の機能低下などが家族の理解を超えている可能性もあり、

……終末期を考えてもらうためには病状の変化をその都度客観的に伝え、現時点で行っている治療の必要性や意義を十分伝えておくことが前提となるであろう。また今後医療的介入をする場合には、これまでの人生や歴史を踏まえながら、メリットとデメリット、可能性と苦痛の天秤をその人に照らしながら考え、どの選択がその人にとって最善なのかを、家族と医療者とが十分に話し合いを持ち、決定していく必要があると考える。


 ・保護者の高齢化に伴い、健在のうちに十分な話し合いを行っておく必要。

 ・紹介された実例では、
  入所後間もない時期には母親の入所の決断をめぐる罪悪感が大きく、
そのため治療をめぐる判断にも母親の願望の方が大きく影響していたが、
面談のたびに治療によるメリット・デメリットを客観的に伝える努力により、
次第に本人の視点で考えられるようになった。