『働くケアラーへの支援』書きました

働くケアラーへの支援【英国】

英国政府は8月27日、Employers for Carers、Carars UKという2つのケアラー支援組織と共同で報告書“The Supporting Working Carers Report (働くケアラー支援報告書)”を刊行した。

現在、英国には、働きながら家族や友人を無償で介護しているケアラーが約300万人いる。そのうち、ほぼ200万人がフル・タイムで働いている。しかし、柔軟な働き方ができなかったり、信頼できる介護サービスを受けられなければ、これらのケアラーも仕事をやめるか減らすことを余儀なくされてしまう。それはケアラーにとって金銭面で、またキャリア面での危機に直結するが、産業界や経済にとっても専門知識や技能の喪失、税収の減少という痛手となる。

ケア・支援大臣のノーマン・ラム氏は報告書の刊行に際して、以下のように述べる。「この報告書は働くケアラーを支援するために更なる努力ができるし、しなければならないという、産業界と政府からの画期的な声明である。すでに多くの雇用主がスタッフの仕事と介護の両立を支援することの利益を認識しているが、このような良い実践を広げて、すべてのビジネスで実現していく必要がある」。

報告書は200人以上の従業員を調査し、職場での支援を改善することによって、スタッフの生産性と歩留まり率の向上、病気休暇と休職率の低下など、ビジネスにとってもコスト削減効果があるとの新たなエビデンスを示した。Employer for Carersの会長でブリティッシュ・ガス在宅エネルギーのマネジング・ディレクターのイアン・ピーターズ氏は「産業界へのメッセージは単純です。職場がケアラーにより良い支援をしなければ、最も経験を積んだスタッフがどんどん職場を離れていきますよ、というものです」。またCarers UKの副会長、キャロライン・ウォーターズ氏は「親が働くためには良質で信頼できる柔軟な保育ケアが必要なように、成人や障害のある家族をケアしている人々にも同じような視点と配慮での支援が必要なのです」と語る。

英国では、26週以上勤続したケアラーには柔軟な労働時間を求める法的権利が認められているが、それをすべてのケアラーに拡大していく法案が現在、議会で審議中となっている。ケア法案(the Care Bill)では、これまでのように地方自治体からケアラー・アセスメントを受ける権利に留まらず、ケアされている人と同等の資格で自治体から支援を受ける法的権利が、初めてケアラーに認められている。自治体も、ケアラーを含めた人々が働けるような介護と支援の開発に向け、サービス提供者とともに検討しなければならない。

法案の通過に先立って発表された今回の報告書が提唱しているのは、主として以下の点である。

・雇用主は柔軟な働き方に向けた努力を新たにし、このアプローチの利点を他の産業にも積極的に推進すること。

・産業界はそれぞれの方針や手順を見直し、増大する英国の介護責任を担っていくためにふさわしい「ケアラーに配慮ある」方針や手続きとすること。

地方自治体はケアラーが働き続けられるよう介護市場の発展を支援し、より柔軟で手が届く価格での介護・支援サービスを提供できる介護市場を実現すること。

報告書は、働くケアラーへの支援の改善は英国の産業と経済にとって大きな活性化となると同時に、納税者の金を預かる国庫にとっても年間13億ポンドの節約となる、と結論付けている。


Employers for Carersとは

 Employers for Carersは働くケアラーへの職場での支援を考える会員制フォーラム。ブリティッシュ・ガス社が会長を勤め、現在70以上の企業やその他法人が会員となっている。

介護者支援の老舗チャリティ、Carers UKをアドバイザーとして、定期的に会員間で介護者支援問題を学習したり話し合うイベントを主催するほか、企業内の担当者に向けた介護者支援に関する法律知識や啓発などの研修プログラムを提供。また関連情報を広く紹介し、法や制度改正への対応などの相談にも応じる。

Employers for Carersのサイトでは、従業員の7人に1人がケアラーとなる時代を目前に、不況の時代だからこそ、企業にとってケアラーである従業員への支援は喫緊の課題だと訴えている。


http://www.employersforcarers.org/

連載『世界の介護と医療の情報を読む』88
介護保険情報』2013年10月号