介護者の自殺念慮&ヤングケアラーについて、書きました
介護者の自殺念慮に関する研究はじまる(豪)
オーストラリアのグリフィス大学のシオバン・ドゥワイア博士らが、家族介護者の自殺念慮に関する研究を進めている。これまでの論文を眺めてみると、ドゥワイア博士は認知症の人のケアの改善をテーマにしてきた学者のようだが、その中から介護者の自殺念慮に目が向いたのだろうか。他の研究者らと共著で2013年に『認知症の人々の家族介護者における自殺念慮:パイロットスタディ』(Int J Geriatr Psychiatry掲載)と『認知症の人々の家族介護者における自殺念慮とレジリエンス[回復力]:質的パイロットスタディ』(Aging Ment Health掲載)、今年4月には『無償の介護を提供している中年オーストラリア女性における、人生は生きるに値しないという気持ち(自殺念慮)』(Maturitas掲載)と立て続けに3本の論文が発表されている。
去年の論文2本はそれぞれ、オーストラリアと米国で認知症の人を介護している120人の家族介護者へのオンライン調査と、9人の介護者への面接を行い、その結果を分析したもの。認知症の人の介護者は4人に1人が自殺を考えたことがある可能性を指摘している。またリスク要因として、介護を始める前からのメンタル・ヘルスの問題、身体的な健康状態、他の家族やケア・スタッフとの軋轢を、レジリエンスを助ける要因としてはコーピング[対処法]戦略、信仰、社会支援、個人の性格を挙げた。これらについてはさらに研究を深める必要があるとしつつも、サービス提供者や医療職は現在自殺を考えている介護者を見つけ出して支援するための策を講じる必要がある、と結論している。
今年の論文は、1996年から2016年まで保健省によって行われている第5回女性の健康に関する縦断的研究(ALSWH)から56歳から61歳までの約1万人のデータを用いて、女性介護者の自殺念慮に焦点を当てている。その分析によると、前の週に自殺を考えたことがあるのは介護している女性では7.1%だったのに対して、介護していない女性では5.7%だった。また明らかに病的なうつ症状に当てはまる人は、自殺を考えた介護者の80%、考えたことのない介護者では22%だった。
自殺を考えたことのない介護者の4分の3が介護者役割に満足していると答えている他、介護者が社会支援についてどのように感じているかが重要な要因となっていることも、今回の興味深い知見だ。ドゥワイア博士は、これまで40年間、介護者の負担ばかりに研究の焦点が当てられてきたが、介護者役割は自殺念慮の直接の原因ではなく、むしろ介護を始める前からストレス要因のあった人で起爆剤となっている可能性がある、と指摘する。
また介護者にとって大事なのは支援の総量ではなく、介護者がその支援をどのように感じているかの方だという指摘も重要だ。「自分の求めている支援が得られているか、支援の回数は十分か、そこを介護者がどう感じているかが鍵なのです」
こうした研究は緒についたばかりだという。多様な介護者の実態に即した研究がさらに進められることを期待したい。
ヤングケアラー支援パスウェイ(英)
英国保健省は4月、ヤングケアラー支援パスウェイを発表した。ヤングケアラーを発見し、彼らの心身の健康を守り、必要な支援につなげる役割をスクールナースに託す新方針が打ち出されている。そのための研修では、介護者支援チャリティのケアラーズUKが中心となり、保健省とも子どもの支援チャリティであるチルドレンズ・ソサエティとも協働する。
切れ目のない支援のためには、地域の医療と福祉と教育とが連携することが不可欠だ。それら専門機関間のコーディネーターとしてもスクールナースの活躍が期待されている。また、ヤングケアラーには新たに緊急時計画が作られて、自分が介護している人に緊急事態が発生した時にはどうすればよいか、自分の手に負えないと感じる事態に至った時にはどうすれば助けが得られるかの情報が盛り込まれる。
英国には障害や病気のある人を介護する18歳以下のヤングケアラーが16万6000人いるという。さて、わが国のヤングケアラーの実態はどうなのだろう? せめて日本のヤングケアラー支援サイトを2つ紹介しておきたい。
http://youngcarer.sakura.ne.jp/
http://youngcarers.carersjapan.com/
「世界の介護と医療の情報を読む」第96回オーストラリアのグリフィス大学のシオバン・ドゥワイア博士らが、家族介護者の自殺念慮に関する研究を進めている。これまでの論文を眺めてみると、ドゥワイア博士は認知症の人のケアの改善をテーマにしてきた学者のようだが、その中から介護者の自殺念慮に目が向いたのだろうか。他の研究者らと共著で2013年に『認知症の人々の家族介護者における自殺念慮:パイロットスタディ』(Int J Geriatr Psychiatry掲載)と『認知症の人々の家族介護者における自殺念慮とレジリエンス[回復力]:質的パイロットスタディ』(Aging Ment Health掲載)、今年4月には『無償の介護を提供している中年オーストラリア女性における、人生は生きるに値しないという気持ち(自殺念慮)』(Maturitas掲載)と立て続けに3本の論文が発表されている。
去年の論文2本はそれぞれ、オーストラリアと米国で認知症の人を介護している120人の家族介護者へのオンライン調査と、9人の介護者への面接を行い、その結果を分析したもの。認知症の人の介護者は4人に1人が自殺を考えたことがある可能性を指摘している。またリスク要因として、介護を始める前からのメンタル・ヘルスの問題、身体的な健康状態、他の家族やケア・スタッフとの軋轢を、レジリエンスを助ける要因としてはコーピング[対処法]戦略、信仰、社会支援、個人の性格を挙げた。これらについてはさらに研究を深める必要があるとしつつも、サービス提供者や医療職は現在自殺を考えている介護者を見つけ出して支援するための策を講じる必要がある、と結論している。
今年の論文は、1996年から2016年まで保健省によって行われている第5回女性の健康に関する縦断的研究(ALSWH)から56歳から61歳までの約1万人のデータを用いて、女性介護者の自殺念慮に焦点を当てている。その分析によると、前の週に自殺を考えたことがあるのは介護している女性では7.1%だったのに対して、介護していない女性では5.7%だった。また明らかに病的なうつ症状に当てはまる人は、自殺を考えた介護者の80%、考えたことのない介護者では22%だった。
自殺を考えたことのない介護者の4分の3が介護者役割に満足していると答えている他、介護者が社会支援についてどのように感じているかが重要な要因となっていることも、今回の興味深い知見だ。ドゥワイア博士は、これまで40年間、介護者の負担ばかりに研究の焦点が当てられてきたが、介護者役割は自殺念慮の直接の原因ではなく、むしろ介護を始める前からストレス要因のあった人で起爆剤となっている可能性がある、と指摘する。
また介護者にとって大事なのは支援の総量ではなく、介護者がその支援をどのように感じているかの方だという指摘も重要だ。「自分の求めている支援が得られているか、支援の回数は十分か、そこを介護者がどう感じているかが鍵なのです」
こうした研究は緒についたばかりだという。多様な介護者の実態に即した研究がさらに進められることを期待したい。
ヤングケアラー支援パスウェイ(英)
英国保健省は4月、ヤングケアラー支援パスウェイを発表した。ヤングケアラーを発見し、彼らの心身の健康を守り、必要な支援につなげる役割をスクールナースに託す新方針が打ち出されている。そのための研修では、介護者支援チャリティのケアラーズUKが中心となり、保健省とも子どもの支援チャリティであるチルドレンズ・ソサエティとも協働する。
切れ目のない支援のためには、地域の医療と福祉と教育とが連携することが不可欠だ。それら専門機関間のコーディネーターとしてもスクールナースの活躍が期待されている。また、ヤングケアラーには新たに緊急時計画が作られて、自分が介護している人に緊急事態が発生した時にはどうすればよいか、自分の手に負えないと感じる事態に至った時にはどうすれば助けが得られるかの情報が盛り込まれる。
英国には障害や病気のある人を介護する18歳以下のヤングケアラーが16万6000人いるという。さて、わが国のヤングケアラーの実態はどうなのだろう? せめて日本のヤングケアラー支援サイトを2つ紹介しておきたい。
http://youngcarer.sakura.ne.jp/
http://youngcarers.carersjapan.com/
「介護保険情報」2014年6月号