介護を終えたケアラーへの支援の必要 人的資源としての活用も

読み人知らずで英語圏で語り継がれてきた「介護者の権利章典」の中に、
次の一節がある。

To protect my individuality and my right to make a life for myself that will sustain me in the time when my relative no longer needs my full-time help.

(私には)一人の人としての自分と、自分自身の人生を生きていく権利とを守る権利があります。いつか家族に常時介護が要らなくなる日が来ても、その後にも私が私であり続けられるために。
(翻訳は上記リンクから、これを機に、さらに改訂してみました)


多くのケアラーが
介護のために自分の人生の継続性を諦めざるを得なかった痛みを
引きずって生きている。

私自身が、何がなんだか分からないままに、
ものを書かないでいられなかった衝動の正体も、
結局はその痛みだったのだと、いつからか自覚するようになった。

スコットランドオープン大学Joyce Cavaye教授らが、
介護を終えた元ケアラーの生活や体験について調査研究を始めている。

現在、英国には650万人のケアラーがいると推測されており、
スコットランドには65万人の無償のケアラーがいるとされる。

介護負担から心身の健康を害したり、
仕事を辞めざるを得なかったり、経済的に困窮したりと
ケアラー自身のQOLは下がりがちとなる。

最近の調査でも
スコットランドのケアラーの83%が身体的な健康に影響があると答え、
65%がメンタル・ヘルスに影響があると答えている。

勤労年齢のケアラーの半数で働き手のいない家庭となっており、
17万人が介護のために有給の仕事を辞めたと答えている。

食費や燃料費が上がる一方で、
ケアラーの収入はこうした事情から減るばかりだ。

介護者への支援の必要は認識されてきて、
スコットランド政府も介護者戦略の見直しによって
地方自治体の「介護者支援計画」や
教育、医療と福祉を結ぶ啓発プロジェクトthe Equal Partners in Care(EPIC)などが
動きだそうとしている。

しかし、それらは
現在、介護を担っているケアラーへの支援策であり、

年間、30~40%が新たにケアラーとなる一方で、
同じく30~40%がそれまでになっていた介護から離れるといわれる中、

介護を終えた元ケアラーへの支援の必要には、
未だに眼が向いていない。

介護を担うために自分自身の人生を中断させ、
仕事を辞め、大切なキャリアを犠牲にしたり、
仕事と無償の介護を両立させてきた人たちは、
自分の人生の糸をもう一度つなげるのだろうか。

介護負担による影響は
いつまで続くものなのだろうか。

介護を終えた後に、
新たな人生の目標を見出せず、
仕事への復帰も難しいとの見方がある一方で、

介護体験から新たなスキルと興味を身につけて、
それを生かすべく新たなチャンスを広げ開拓していけるし、

介護体験者はそれだけの貴重な人的資源だとする
考え方もある。

そこで、Caveye教授らが
介護を終えた人への支援の必要や
必要な支援の内容を探るため研究を始めたもの。

comment: Life should go on after caring stops
The Scotsman, August 6, 2014


これ、とても大事な研究だと思う。

そういえば、
自分が介護を体験したことで
介護者支援のために何かしようと
活動を始めた米国人男性の記事を、先週どこかで読んだ。

たしかに
ケアラーの痛みを知っている介護体験者や元ケアラーこそ、
活用すべき介護者支援の貴重な人的資源のはず。

それもまた「専門知」なのだと気づけば。