障害のある我が子をケアし続ける「高齢親介護者」の実態調査(豪)

「親介護者」というと、一見「親を介護している人」と間違われそうだけれど、
「障害のある我が子を介護している親たち」のこと。

オーストラリアのシドニーで、
貧困、障害、病気などで苦しむ人々への地域支援で150年を越える歴史を持つ
キリスト教系の団体Anglicare Sydneyの社会政策と調査ユニットから
10月に「高齢親介護者」の実態調査報告が出ている。

報告書のタイトルは
“Caring into Old Age: The wellbeing and support needs of parent carers of people with disabilities”
「高齢期に及ぶ介護:障害のある人々の親介護者のウェルビーイング(心身の安寧)と支援ニーズ」


大部の報告書で、とても全文は読みきれないので、
3ページから6ページまでのexecutive summaryを読んでみた。

「高齢親介護者」とは、
障害のある息子または娘の主たる介護者である60歳以上の人。

調査対象は、
アングリ・ケアの支援コーディネーション・プログラムを利用する高齢親介護者たち。

報告書は、介護者本人の心身の安寧(wellbeing)に焦点を置きつつ、
介護役割が高齢親介護者に及ぼす影響の概要を描き出す。

サマリーの内容を以下に。
(番号は内容を読みやすく整理するためにspitzibaraが追加したものです)

===

① アングリ・ケアの支援プログラムを利用している高齢親介護者の多くは
女性(81%)で、5分の1(18%)が80代または90代。

30年以上介護している人が63%もいる。
8%程度は、複数の人を介護している。

彼らが介護している息子や娘の65%に知的障害があり、
中には身体障害、精神障害、慢性病を伴っている人もいる。

また4人に1人が2つの病気や障害を診断されており、
10人に1人は3つ以上の障害を持つ。

② 高齢親介護者は通常はレジリエンスが高いが、
同時に介護役割ゆえの孤立感を覚えたり、
社会的また経済的な排除を体験している人もある。

介護者役割の影響が及ぶのは
介護者本人の心身の安寧(wellbeing)、人間関係、教育の機会、有償で雇用される資格。

様々な調査研究から
介護者の心身の安寧は国民の平均を大きく下回ることが明らかとなっている。

特に高齢親介護者が案じているのは
健康、財政、人生で成せること(life achievement)、将来の安定。

③ 高齢親介護者には、ストレスと不安が広く見られ、
3人に2人で正常範囲を超えたストレスがある。

介護者のストレス・レベルに影響する要因としては、

・知的障害または2つの診断がある成人した子どもの介護
・自分が介護している相手との衝突
・介護者役割から離れられる時間
・介護者への社会支援への意識の欠落

これまでの高齢親介護者はレジリエンスと長生きを要因として
さほどに支援を求めようとしない傾向があったが、
アングリケアの支援プログラムに参加する人たちは参加時に
最も重要な支援サービスとして、以下のものを挙げるようになっている。

・ケース・マネジメント
・移行計画
・レスパイトと、介護を受けている人の社会との接点

アングリ・ケアの支援プログラムの利用実態は個々によって様々だが、
利用している間に介護者の心身の安寧に良い変化が見られた。

具体的には健康状態、介護者本人の財政状況が改善され、
自分を地域社会の一員と感じられるようになった。

高齢親介護者が介護役割を担い続け、将来への不安を軽減し、
支援ネットワークを広げて自分の心身の安寧を向上させるためには
こうした支援プログラムが不可欠である。

・高齢親介護者にとって最大のストレス要因は
障害のある我が子が将来どこでどのようにケアしてもらうか
(care and accommodation arrangements)という問題。

介護する人もされる人も、たいていは、できる限りは自宅で一緒に、と望んでいるが、
そういう暮らし方ができなくなる時に備えて計画があることは最重要。

そこでは、
自宅以外の選択肢が限られていること、
障害のある人の将来の介護の質、
親が介護できなくなった将来の我が子の心身の安寧と幸福などの問題が、
ただでさえ微妙で難しい問題をさらに複雑にしている。

どのような選択肢があるかについて十分に知り(fully informed)、
支援を受けて難しい問題を話し合い、
将来、家族が適切な環境で介護支援を受けることができると確信できれば、
大いに助けとなり、将来に向けた計画を立てるという作業を進めることができる。

そうした移行計画立案に
兄弟その他の家族が関わって、現在及び将来の介護について
話し合い計画を立てることができれば
介護者のストレスは大きく軽減される。

もちろん在宅介護への支援は不可欠であり、
その望ましいタイプはアングリ・ケアのプログラムと同じように、

・移行計画立案における教育と支援
・レスパイトとレクリエーション活動
・人との繋がりの拡大
・個別化した家庭内支援

レスパイト・サービスは、
家に入る形でも外部に預かる形でも、短期でも長期でも、
あらかじめ計画しての利用でも緊急時にも、
個々の事情に応じて選択できる様々な形態が利用可能であることが望ましい。

定期的なレスパイトが可能になることで
緊急事態を回避することができる。

④ 政策の方向性としては、

介護者が果たしている役割は
国と地方自治体の法律によって認識され、介護者戦略にも盛り込まれている。

そこでは介護者の権利に関する原則も明記されているが、
それらを実現するための法的強制力がない。

2018年に完全実施されるthe National Disability Insurance Scheme(NDIS:国家障害者保険制度)
障害者が自分で選択し自分で決めること(choice and control)を支援する仕組みとして
国連障害者権利条約で謳われた権利を具現化するものだが、

そこで作成される障害のある本人の計画では
介護者のニーズへのアセスメントと対応は保障されない。

成人した息子娘を介護し続けるためには
高齢親介護者にも支援は必要であり、そのためには
NDISの元で、本人とは別途、介護者アセスメントを認める必要がある。

障害のある我が子が、適切で、まかなうことのできる、
安定的・長期的ケアを受けられる(accomodation)現実的で持続可能な選択肢が
保障されることが、不安定な将来への不安と直面し続ける高齢親介護者への
大きな支援となるのだ。

⑤ 最後に10の具体的な提言が挙げられていますが、
その内容は上記を取りまとめたものなので省略。


豪のNIDSについては私はここで読むまで知らなかったし、
現在もここで書かれている以上のことを知っているわけではないのですが、

本人の選択とコントロールを保障するためには
彼らを支えている家族と介護者への支援が不可欠だとしつつ、
NIDSの「家族と介護者」向けのページでは以下のサービスを挙げている。


Participant Plans

Each participant will have an individualised plan that is tailored to their goals, personal circumstances and disability support needs. The types of supports that the National Disability Insurance Scheme may fund that may have direct or indirect benefits for you as a carer include:

・personal care to support an individual in their home or the community

・supports to assist people with disability to enjoy social and community interaction without relying solely on you

・supports that maintain a carer’s health and wellbeing will be considered. This support may include participation in a support group or a special interest network. In deciding whether to fund or provide a support, the National Disability Insurance Agency will take account of what it is reasonable to expect families, carers, informal networks and the community to provide.

・assistance with tasks of daily living including to help improve a person’s ability to do things

・supported employment services and help for people to move to work programs that prepare people with disability in work, and

・training related to the caring role that may enhance your ability to provide care.

For more information about being a carer, you may wish to visit Carers Australia.



英国のような介護者アセスメントを義務付けるなら、
むしろ介護者戦略の方でやるのが筋なんじゃないのかなぁ、という気がしないでもないんだけれど、

一方、ここに書かれている範囲は
「本人への支援によって介護者も間接的に支援されることになるよね」というのと
「よりよき介護者となれるように支援しましょう」という
従来型の「介護者支援」の姿勢でしかないようにも思える。

その他は、「介護者支援」関連情報の提供でお茶を濁している、というところか。



【参考】オーストラリアにおける障害者権利条約の実施と国内モニタリング
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h25kokusai/h7_07_01.html


【24日追記】
NIDSのHPによると、
いくつかの州で「試行」が始まっているということのようで
大改革なので「段階的に導入していく」と書かれています。