「医療的ケアを必要とする子どもをめぐる現状と課題」を書きました

日本ケアラー連盟のニュースレターNO.7に、
以下の記事を書きました。

刊行は2月下旬の予定です。


医療的ケアを必要とする子どもをめぐる現状と課題
                                       日本ケアラー連盟理事 児玉真美


急増する「医療的ケア児」

近年、医学の発達で新生児の救命率が上がり、経管栄養や痰の吸引、呼吸管理など医療的ケアを必要とする子どもが増えています。そのため病院NICUや小児科でベッドが不足し、「退院支援」「地域移行」という方向性が打ち出されました。しかし帰っていく地域では支援資源は不足したまま、家族介護者、主として母親たちが過重なケア負担に喘いでいます。

厚労省の実態調査(2015年度中間報告)によると、医療的ケアが必要な19歳以下の子どもは全国に推計約1万7000人で、2005年度の推計9400人から10年間で約1.8倍に増加。在宅人工呼吸器を必要とする未成年患者は、2005年度の約260人から約3000人へと、10倍以上に急増しています。

不足する支援 疲弊する母親たち

昨年の障害者総合支援法改正では、こうした子どもたちを「医療的ケア児」と定義し、地方自治体に支援の努力義務が課せられました(「医療的ケア児」という呼称をめぐっては様々な議論があります)。医療的ケアを必要とする子どもたちが安定した生活を送るためには、医療と福祉と教育が連携して支援していく必要があります。NICUから十分な移行準備を経たうえで地域に帰す「退院支援」に加えて、生活を支援するための地域の支援資源整備と連携ネットワークが不可欠です。各地で関係者が少しずつ声をあげ、メディアでも取り上げられつつありますが、まだまだどちらも十分ではありません。

平成26年の一般社団法人全国訪問看護事業協会の報告によると、小児の訪問看護を実施している訪問ステーションは約30%に留まっています。子どもによっては数分おきの痰の吸引など24時間365日の医療的処置や管理が必要になりますが、同報告書には「多くの処置管理が母親によってなされバーンアウト寸前です」と書かれています。

ここ数年さまざまな自治体や団体から医療的ケアを必要とする子どもの実態調査が報告されており、それらによると主たる介護者の8割から9割が親、主に母親です。それらの調査結果からは、多くの母親が十分な睡眠時間も休息も取れず、体調を崩しても代わってくれる人がない状況で、腰痛や慢性疲労など心身の不調を抱えて疲弊している実態が浮かび上がってきます。

詳細はこちら ↓
在宅重症心身障害児者の介護者に関するデータ整理(2016/8/31)
障害児者の「地域生活」における「家族依存」の実態: 親たちが命を絶つ事件が続いている(2016/12/12)


親が付き添わないと保育所や学校に行けない

医療的ケアという言葉からは寝たきりの重症児がイメージされがちですが、実際には人工呼吸器をつけたり痰の吸引を受けながら、立ったり走ったりできる子どもたちも含まれます。しかし医療的ケアが必要となると、「保育士や看護師の配置や人工呼吸器の安全な運用が難しい」「突発的事故が起きる可能性が高い」「前例がない」などの理由で保育所や幼稚園に受け入れを拒否されるケースが少なくありません。重症児の療育機関からは対象にならないと断られ、家庭以外に居場所がなければ、母親が仕事を辞めざるを得ません。

そうした子どもたちがそろそろ学齢期に差し掛かっていますが、親が送迎や学校での常時の付き添いを求められるケースが相次いでいます。やむなく週に数回の訪問教育を選択しても、やはり親の付き添いが求められます。子どもは義務教育を受ける機会を奪われ、母親は働く機会を奪われてしまいます。そうして多くの母親が、過重なケア負担を担ったまま経済的な不安の中で暮らしているわけです。

「者」の高齢化、親の高齢化

もう一つ、医療的ケアを必要とする「児」の問題の一方に、重症障害「者」の高齢化と、それに伴う重度重症化という問題があります。もともとはさほどではなかった重症児者や知的障害児者が、高齢化に伴って医療的ケアを必要とするようになるのです。

各種データからは、いわゆる重症心身障害児者の約半数から3分の2が在宅生活と言われていますが、そこでは本人のみならず、介護を担っている親たちの高齢化も深刻です。一人ひとりのライフステージに基づいた施策・制度の充実や拡充が急務となっています。

障害のある子どもは、ずっと母親がケアするもの?

最近よく耳にするのは、疲弊した地域の母親たちが命を絶っているという話。そしてもう一方で、障害のある子どもは母親が介護するのが当たり前だという意識が行政をはじめとする支援サイドに感じられる、という話です。重い障害のある私の娘は今年30歳になりますが、どちらも娘の幼児期には「よくある話」でした。世の中は変わってきた筈だったのに、経済事情が悪くなったために揺り戻しが起きているのか、それとも日本の社会は本当は少しも変わっていなかったのか……。

医療的ケアを必要とする子どもの支援でもケアラー支援の必要が言われ始めていますが、どうしても「たいへんな子育て」というイメージのもとで「お母さんがつぶれないように」「お母さんがケアしやすいように」と、母親による介護を前提に「母親を介護者として機能させ続けるための支援」が模索されがちです。それでは、青年期や高齢期の重症者の地域生活における老親によるケア負担までもが当然視されることに繋がりかねません。

ケアラーの権利擁護としてのケアラー支援

ケアラー支援の本来の理念は、ケアラーその人にも固有の基本的な人権があるとの認識に立ち、ケアラーがケア役割を担いつつ、その人自身の人生を――継続性を失うことなく――生きられるよう支援することにあります。「障害のある子どものケアは、いくつになっても生涯お母さんが担って当たり前」という根深い意識に対して、ケアラー支援の立場から粘りづよく揺さぶりをかけていくことも、医療的ケアを必要とする子どもたちを含めた重症児者への支援の土台作りとして必要なことだろうと考えています。


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「介護者支援法」の制定を目指して活動しています。
ぜひ、仲間になってください。

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【10日追記】
最近ブログを続けることがどんどん負担になってきているのだけど、

そこには加齢による知力体力の低下という要因の他にもう一つ、
世の中の変化の速さ、酷さというのもあるような気がして、

しかも前のブログをやり始めてからの数年間に、
今ほどの知識もなく今ほどものを考えてもいなかったころに、
「これは日本でも起こるのでは?」と懸念していたことが、
今の日本で実際にイチイチ現実となっているのが、

なんか、ちょっと耐え難く重たい。

この話題でいうと、例えば、
2008年にこんなことを書いていた ↓




これから本格的にやってくる自分と夫の老いと、
娘の高齢化とそれに伴う重度化とに、目の前にデンと居座られたまま、
そんな世の中を直視し続けるのは、荷重すぎて、ちょっと、なぁ……。

そんな感じ、かなぁ。