障害児者の「地域生活」における「家族依存」の実態: 親たちが命を絶つ事件が続いている

前に、以下のエントリーに重症児者の親介護者の実態を取りまとめましたが、
在宅重症心身障害児者の介護者に関するデータ整理(2016/8/31)

全国障害者問題研究会の機関紙『みんなのねがい』2016年12月号の
特集「家族のカタチ」の中に、実態調査の結果を取りまとめた記事が2本あったので、
それらの情報を以下にメモ。


「家族依存からの早期脱却を
―障害児者・家族の暮らしと健康実態調査から」
障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会 中内福成


 国は「入所施設からの地域移行、施設定員の削減」を示唆しています。そのため、多くの自治体が入所施設の必要を認識しても、計画上積極的な方針を持つことができない状況を生み出しています。

 特に、都市部を中心に多くの入所施設では定員数を超える待機者がある状況で、親の入院や急死等で家庭での生活が立ち行かなくなった人たちを受け入れられず、人権侵害とも思われる「ショートステイのたらい回し」や先が見えずに命を絶つ出来事も後を断たない深刻な事態となっています。
(p. 20)


調査は、
家族と同居の障害児者の介護者に限定して
2014年9月~2015年2月末に実施されたもの。
2540人から協力を得た。

・障害種別では
知的障害 54%
重複障害 22%
身体障害 10%
精神障害 7%

・主たる介護者は
 91%が母親。

・主たる介護者の年齢分布は
60歳台が23%
40歳台が22%
30歳台が19%
50歳台が19%
70歳台が8%
80歳以上が 3%

・障害児者の年齢区分別で野介護者の平均年齢は、
就学期では44歳
30歳台では63歳
50歳を超えると74歳以上の母親が介護の中心

このことを社会的課題として直視する必要があります

・住まいで困っている人が32%

・3割の家庭に複数の要介護者がいる。

一般家庭と同様に介護者の両親等の高齢化等による介護が必要になり、
二重の苦労が母親の手にかかってくることになります

・母親の66%は働けない、または働いていない。
 働いているのは34%
 そのうち正規職員は23%

家庭の財政基盤の脆弱性がうかがえます

・子どもの思春期から親の体力が低下し始め、
高齢期になると自分の体調が崩れ始めるが、
介護役割を優先するあまり受診が遅れている。

・将来については
「いずれは別居せざるを得ない」と自覚しながら、
安心できる暮らしの場が見出せないまま「いずれ」と考え続けている。

介護者の年齢が70歳以上の高齢期で3割前後の人が
「親子一緒に住み続けたい」を選択していることに注目する必要があります


総じて、主たる介護者である母親は
高齢期で自身の体調不良を抱え、自身の親の介護も加わって、
心身ともに介護の限界を感じているものの、
子どもの障害が重ければ重いほど子離れができにくく、
経済的にも子どもの年金に世帯の財政が支えられて依存関係が増長される。

 特に、入所施設やグループホーム等を活用できず、在宅介護を余儀なくされ「老障介護」と言われている家庭介護の実態、知的障害者の主たる介護者である母親の健康状態は憂慮すべき課題であり、自助・自立を前提にした家族依存型施策からの脱却が強く求められます。


「『家族責任』ではないしくみを
―きょうされん障害のある人の地域生活実態調査より」
きょうされん東京支部 北條正志

2015年に実施された調査。
主に生活介護事業や就労継続支援事業、地域活動支援センター等を利用する
18歳以上の1万4745人からの回答。

親と暮らしている人が54.5%。

60歳でも、10人に1人は家族が暮らしを支えている。

2010年のきょうされんの「家族の介護状況と負担についての緊急調査」では、
主たる介護者の64.2%が母親で、25.4%が父親。

介護者の年齢階層では
50歳以上の介護者が80%を占めていた。

母親だけに絞ると、
60歳以上が54.1%

介護者の状況からも成人した障害のある人を
家族、特に母親を中心とした両親が支えていることが明らかとなりました


まとめとして、

 このように選択の余地がほとんどないなか、親の支えと本人のがまんが半ば強いられている実態の背景には、わが国の「扶養義務」の考えが大きく影響しているのではないでしょうか。

(中略)

 自助・共助が強調され、支え合いや自己責任化がますます進められようとしている昨今ですが、介護・支援は権利であり、国家が責任をもって保障するという考えが浸透し、それに応じたしくみ、資源が整えられていくことを強く望みます。
(p. 26)


母親たちが命を絶っている

ちなみに、①の調査で触れられている
「先が見えずに命を絶つ出来事」については、

相模原の事件を受けた9月28日の集会で
埼玉県の社会福祉法人みぬま福祉会の理事で重症者の娘を持つ新井たかねさんも、
以下のように語っている。

埼玉県の入所待機者は1400人になります。

私のすぐ近くで母親が命を絶つ事件が続いています。

……政治や行政の不作為によって悲劇が起きていることにも
しっかりと向き合うことが必要です。

(神奈川新聞2016年10月2日「時代の正体 相模原殺傷事件考」 討論会㊥)