勝村久司 『僕の「星の王子さま」へ』 2

前のエントリーからの続きです。


理栄さんは次男の良司くんの出産後に、
管だらけの息子と初めて対面した時に気丈に涙をこらえたために
「母性が足りない」と判断され、教育的な意図で搾乳を続けるよう
指導され、辛い思いをしたという。

私も、海がNICUに入っている間、
搾乳を指導され、入院中にとても辛い体験があった。

あんまり辛い体験だったので長いこと書けずにいたのだけど、
やっと2013年に書いてみたのが、これ ↓
医療の「届かなさ」に挑むことに要する勇気について

実は「搾乳」については、退院後にも、こんなことがあった。

私だけが先に退院して毎日面会にはいくものの
母乳がなかなか出なくて、絞って持っていける量がどんどん減ってくると、
NICUの医師からも、廊下で会った産婦人科医からも叱りつける口調で言われたのは、

「お母さんがイライラするから出ないんだよ。
ゆったりした気持ちで過ごさないと、母乳は出ないよ」

初めての出産が、思いもよらない展開となり、
生まれてきた我が子は保育器の中で人工呼吸器をつけ、
赤黒い顔で今にも死にそうになっている。

緊急の交換輸血をします、と毎日のように電話がかかっては、
あらかじめ検査を受けてもらっている人に電話連絡をして無理を頼んでは
病院へすっとんでいく。

何度、深夜や明け方の病院へ駆けつけただろう。
「予断を許しません」という言葉を、
あの頃、いったい何度、聞いたことだろう。

一瞬一瞬を祈りで塗りつぶすように息をひそめて暮らしながら、
電話のベルの第一声で全身が凍り付き、心臓が躍り上がる思いをする。

そんな日々を過ごしている私を、
白衣を着た男たちがエラソーな上から目線で叱りつける。

「お母さんがゆったりした気持ちでいないから、母乳が出ないんだ」
「母乳が出るよう、ゆったりした気持ちでいないとダメだ」

「この状況で、どうやったら、ゆったりした気持ちになれるというんですか?」
叱りつけられるたびに、私は腹の中で言い返した。

「だいたい、そんなふうに『それだからダメだ』と叱り付ければ
相手がゆったりした気持ちになれると、本当に考えてるんですか?
そうやって余計にイライラさせてるのは、先生じゃないですか」


この本の中で指摘されている多くの医療の欺瞞の中で、
最も重大で見逃せないと私が感じた一つは、

陣痛促進剤の安易な使用が増えて、そのために子宮破裂や大量出血による母体死亡や
胎児医療過誤訴訟が増加していることへの懸念と注意喚起が、
日本母性保護医協会(日母)から再三出されていたのに、
そのことが母子手帳や母親教室のテキストを始め、
妊婦サイドには一切知らされていなかった、という事実。

 繰り返し配布されている「日母」の冊子は医師だけに配られ、助産師や看護師にさえ配布されていなかったという。医師に読む気がなければ、その病院にはこれらの警告は一切伝えられないことになる。何よりも重大なことは、最も知らされるべき妊婦にまったく伝えられていないことだ。
(p. 107)


いったい誰を守るための通知なのだろう。これは。

勝村さんはこう憤る。

 産婦人科の権威を持った医者たちは、日本のお産の危険な実態を知りながら、医者向けと一般向けに二枚舌を使っていたのだ。情報が公開されてないだけでなく、教育内容が情報操作されたままなのだ。
(p.108)


私も、2007年からブログで様々な情報をつまみ読みしながら、
この構図は医療のあらゆるところにはびこっている、と
ずっと感じてきた。

例えば、
発達障害の治療をめぐって児童精神科医療のエビデンスを覆すほどの
大きなスキャンダルが世界規模で報道されたビーダーマン事件の際に、
日本の児童精神科医たちは、そこで何が起きているかをちゃんと知っていた。
それでも、日本では誰も、このスキャンダルを広く患者たちに知らせようとはしなかった。

むしろ、日本では広く知られていないビッグファーマ関連情報を流布するブロガーたちを、
ブロガー医師たちはヒステリックに叩きにきた。

自分たちに不都合な情報を流すことへの敵意をむき出しにして、
「お前らみたいな素人に何が分かる」と冷笑しながら。





次のエントリーに続きます。