天童荒太『包帯クラブ』


宮地尚子『傷を愛せるか』で取り上げられていたので、
興味を引かれて読んでみた。

アマゾンの内容紹介

心の傷に包帯を巻こう。

関東のはずれの町に暮らす高校生、ワラ、ディノ、タンシオ、ギモ、テンポ、リスキ・・・・・・傷ついた少年少女たちは、戦わない形で、自分たちの大切なものを守ることにした・・・・・・。
いまの社会をいきがたいと感じているすべての人に語りかける長編小説。


その方法とは、誰かが傷ついた場所に包帯を巻く、というもの。



印象に残って、メモに残しておきたかったのは2箇所。

心の中の風景と、外の景色は、つながっている……そう直感的に思ったときと同じで、わたしは、包帯を巻いて心が軽くなるのは、傷が治ったわけじゃなく、<わたしは、ここで傷を受けたんだ>って、自覚できたことと、自分以外の人からも<それは傷だよ>って、認めてもらえたことで、ほっとするんじゃないかと思った。

「名前が付けられたんだよ、シオ。気持ちが沈むようなこと、納得いかないこと、やりきれないなぁって、もやもやしたこと。その気持ちに、包帯を巻くことで、名前がつけられたんだよ。<傷>だって。傷を受けたら、痛いしさ、だれでもへこむの、当たり前だよ。でも、傷だからさ、手当をしたら、少しずつ痛みもおさまって、いつかは治っていくんじゃない」

タンシオが笑った。黙って、わたしの肩に手を回す。ぬくもりが伝わってくる。
(p.73)


それから、誰かが傷を受けた場所に包帯を巻くことでは効かない傷もあるのだと
主人公野ワラが気づいていく場面で、

……タンシオやギモにしても、すべての傷を明かしたわけじゃないと思う。それにはまた別の勇気が必要で、互いのあいだに別の信頼も要るように思えた。

 そして、確信はなかったけど、きっとそんな勇気や信頼は、自分ひとりで治した傷もいっぱい持ってなきゃだめなんじゃないか、って気がした。

 孤独のなかで、じっとかさぶたができるのを待った傷……その傷あとの多さが、これまでとは別の勇気、別の信頼を、だれかとのあいだに持てる可能性を、与えてくれるんじゃないかって……。

 その代わり、人に明かせるようになった傷だったら、思い切って打ち明けて、包帯を巻いてもらってもいいんじゃないか。そのくらいの甘えは、人は許されてもいいんじゃないかって、このとき感じた。
(p.134)